退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】近田春夫『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』(文春新書、2021年)

昨年10月に死去した稀代の作曲家・筒美京平の評伝。近田春夫ほど筒美京平を論じるのに適した人物はいないだろう。

これまで筒美京平の楽曲にフォーカスした論評は数多く出ているが、この本はそれに留まらず、関係者にインタビューすることにより「人間・筒美京平」を実像を浮き上がらせている点が白眉。

本書は2部構成。

第1部は、いわゆる「筒美京平論」であり、ライターの下井草秀氏による近田氏へのインタビューの形で、年代ごとに章を分けて筒美京平の楽曲について語っている。筒美と個人的な親交があった近田ならではエピソードが面白い。

歌謡界の変遷とともに“変異”を続ける筒美の姿をうかがうことができるが、やはり90年代以降は専業作曲家の活躍の場が狭くなっていくことがわかり、ちょっと寂しい気持ちにもなる。

第2部は、近田による関係者へのインタビュー。インタビューしたのは、実弟・渡辺忠孝、作詞家である盟友・橋本淳、そして秘蔵っ子であった歌手・平山みきの3人である。このインタビューが本書の肝である。

とくに実弟が語る筒美京平の実像は貴重。こう言っては失礼だが大学の成績がよかったのは意外。それにしても東京出身で青山学院に通い、当時の都会の文化を思う存分吸収している人はスゴイなぁと思った次第。うらやましいぞ。これぞ「親ガチャ」ということか。

さらに「近田春夫が選ぶ10曲」もありがたい。郷ひろみの楽曲が3曲も入っているのが特徴的。手元にない楽曲もあったが、なんとSpotifyにあった。少し前までは郷ひろみの曲がなかったが、いつのまにか聞けるようになっていた。例えば、全曲、作詞を荒井由実、作曲・編曲を筒美京平が担当して制作されたアルバム『HIROMIC WORLD』(1975年)もあり驚いた。ずっと聞きたかったんだよ。

また全編通して、白黒だがジャケット写真が奢られているのもうれしい。ていねいに作られた評伝であり、筒美京平を追悼するのにふさわしい力作。オススメします。

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