話題になっていた映画『侍タイムスリッパー』(2024年、脚本・監督:安田淳一)を鑑賞する。主演は山口馬木也。時代劇ファンとしては見逃せない。少し遠征して見てきた。
幕末、会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)が、長州藩士と戦っているさなか、落雷により現代の時代劇撮影書にタイムスリップ。そこで「斬られ役」として生きていく姿を描く時代劇コメディ映画。
武士が現代にタイムスリップするという話は、過去になかったわけではないが、時代劇の撮影所の「斬られ役」ということと、宿敵も何十年前に同じ時代にタイムスリップしていたという着想がユニーク。アイデアの勝利と言ってよい。
ただ現代日本にタイムスリップしてきた主人公は、もっと別のところに驚くのではないか。漫画の刃牙シリーズのなかで、タイムスリップではないが、宮本武蔵が現代に出現するエピソードがある。そのときの武蔵の驚きはなるほどと思ったものだが……。
またクライマックスで撮影なのに真剣で斬り合うシーンがある。俳優の念書があるにせよ、監督があっさり許すのは「ないわー」と思った。
まあ、あまり無粋なことを言わず、フィクションとして楽しむのがよいだろう。
主演の山口馬木也は、テレビ時代劇・藤田まこと版「剣客商売」の二代目・秋山大治郎役として出演していた。ちなみに初代大治郎は渡部篤郎が演じていた。好きだった時代劇だったので、そのときの経験が本作に活かされていると思うと感慨深い。殺陣が素晴らしいことは、本作の白眉である。
自主制作映画ながら、脚本に惚れたという東映京都の支援により見応えのある作品になっているが、出演者の顔ぶれはビミョウ。あと欲を言えば、やはりクライマックスは大立ち回りのシーンがほしかった。予算的にむずかしかったのだろうか。
それでも自主制作映画が、単館上映から話題を呼び、シネコンを含め広く配給されてヒットするのはロマンがある。時代劇でこうした作品はそうそう出ないであろうが、日本映画もまだ捨てたものではない。