先日、TVerでテレビドラマ「不毛地帯」を見た。2009年に「フジテレビ開局50周年記念ドラマ」として放送された。主演は唐沢寿明。全19回。原作山崎豊子の同名小説。この時期の配信は、川又空将補を演じた柳葉敏郎の主演映画「室井慎次 敗れざる者」の公開にともなうプロモーションだろう。
原作はこれまで何度か映像化されているが、1976年に山本薩夫監督、仲代達矢主演で前半部が映画化されている。原作者は左翼的な潤色に不満だったらしいが、社会派映画の名作として広く知られている。あらすじは、旧陸軍中佐が、シベリア抑留からの帰還後に総合商社に入社し、経済戦争を戦い抜いていくというもの。伊藤忠商事の元会長瀬島龍三がモデルとも言われいる。
本作は民放にしては超大作であり、大変見応えがあった。映画版では、航空自衛隊の次期戦闘機選定争いのパートだけ映像化されたが、本作では自動車編、アメリカ編、石油開発編を含む原作全編がドラマ化されている。しかしながら、視聴率が低迷したため当初の予定よりも放送回数が減らされ、終盤は駆け足の感があり残念。現在NHKで再放送されている「坂の上の雲」を比べるのは酷ながら、後世に作品を残すという思いに欠ける。このあたりは民放の限界を感じさせる。
主演の唐沢寿明は、同じく山崎豊子原作のテレビドラマ「白い巨塔」(2003年)でも主演しており、原作者のお気に入りだったのだろう。唐沢演じる壱岐正は、瀬島龍三がモデルにしては凄みに欠ける気もするが、飄々とした演技は素晴らしい。
出演者で惹かれたのは、壱岐の旧軍時代の上官の娘・秋津千里役の小雪。陶芸家になった千里が、壱岐の愛妻(和久井映見)が急死したあと、壱岐と男女の関係となるも再婚するわけない微妙な距離を続けるのは、大人の恋というものか。小雪の背が高すぎて二人の身長差がどうも絵にならないのだが、長身フェチのワタシ的にはツボだった。壱岐のアメリカ赴任中に、メイド(吉行和子)がベッドで、千里の長い髪の毛を見つけて、壱岐に対する態度が急に冷たくなるくだりもちょっといい。
壱岐がシベリアで亡くなった日本兵の墓参りに向かうラストは、初回で218分もの長尺を使ってシベリア抑留から帰還後の再起を図るまでを丁寧に描いたことが回収されて感慨を受けた。それだけに、やはり終盤が駆け足だったことが惜しまれる。