退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『にっぽん泥棒物語』(1965) / 松川事件に材をとった社会派喜劇

新文芸坐の《生誕110年 巨匠・山本薩夫 反骨のヒットメーカー》で映画『にっぽん泥棒物語』(1965年)を鑑賞。独立プロの山本薩夫監督が東映で撮った隠れた名作。主演は三國連太郎

終戦間もなくハイパーインフレで貨幣価値は急落し、コメと着物といった現物が幅を効かせていた時代。ときは泥棒天国。主人公・義助(三國連太郎)は、もぐりの歯医者を隠れ蓑に土蔵破りで養母と妹を養っていた。いまや前科三犯の筋金入りの破蔵師である。四度目の服役中に知り合った青年と組んで土蔵破りを決行する。途中、列車転覆事件を目撃するが、後に刑事(伊藤雄之助)に証言しないように脅迫されて……。

前半は土蔵破りを題材した軽妙な喜劇かと思ってみていた。芸達者の三國連太郎のユーモラスな演技が楽しい。しかし途中から松川事件(劇中では杉山事件)に巻き込まれて、一転して冤罪をめぐる社会派映画に変貌する。強引な演出で戸惑いを覚える。それでもラストでは義助が、法廷の証言のあとで美人妻(佐久間良子)と抱き合って終わるのは救いがある。

フツーにエンターテイメントとしての喜劇映画を撮らないのは、実に山本薩夫監督らしい。監督の特集上映には欠かせない作品であろう。それにしても福島弁(?)が使われているのはいいが、時々何を言っているのわからないのは難点。標準語字幕がほしい。

さて、鈴木瑞穂加藤嘉加藤武市原悦子など新劇の俳優がが大挙出演しているなか、二枚目時代の千葉真一の顔も見ることができる。我らがチバちゃんは杉山事件の被告側の弁護士のひとりを演じている。真面目なチバちゃんはレア。一見の価値あり。