新文芸坐の《没後10年 巨匠・熊井啓》という熊井啓監督特集で映画『千利休 本覺坊遺文』(1989年)を鑑賞。井上靖晩年の小説『本覺坊遺文』の映画化作品。製作は西友でセゾン文化の残滓が感じられる。
千利休(三船敏郎)が太閤秀吉(芦田伸介)の命により切腹してから27年。利休の弟子であった本覚坊(奥田瑛二)は、ある日利休の友であった織田有楽斎(萬屋錦之介)の訪問を受ける。ふたりは利休がなぜ死を賜ったのか語り合う。ふたりの会話や本覚坊の回想から利休の死の真相を探るドラマが始まる。
いかにもカネがかかっていると思わせる映像が美しいのは美点。画面の隅々にまで緊張感が漂っていて絵画のような美しさ。木村威夫の美術が冴えている。その舞台の上で名優たちが演技をぶつける。三船敏郎と萬屋錦之介の共演は本作が最後だったというが、ふたりの演技合戦は見応えがある。
興味深かったのは、戦場で利休の茶をありがたく頂いた武将たちが戦場で次々に討ち死にしていく場面。茶の本質はこのあたりに見出すことができるのだろうか。一見静かなものに思える茶の裏に何か激しいものが感じられた。
それにしても、今回の併映作『お吟さま』(1978年)では三船は秀吉役だったがせいもあるが、三船敏郎が演じる千利休はどこか違う。ミスキャストに思えた。同年に公開された勅使河原宏監督の『利休』では三國連太郎が利休役だったか、こちらの方がしっくりくる。
振り返ると利休を取り上げた日本映画は多い。日本人にとって想像以上に大きな存在なのかもしれない。