退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書、2022年)

ロシアの安全保障の専門家によるウクライナ戦争の解説本。

紛争勃発後、著者は図らずもテレビに出まくることになったので、いまや顔を知らない人はいないだろう。これまでテレビやインターネットで著者の解説を断片的に聞いていたが、包括的にウクライナ戦争についての知識を整理するのに最適な一冊。

惜しむらくは、ロシアのクリミア併合(第1次ウクライナ戦争)について詳しい言及がないこと。これは著者が既に同じ出版社から本を出しているから仕方ないのだが、「クリミア併合のときにもっとなんとかならなかったのか」とずっと思っていたのでやや残念。

面白かったのは「三位一体の戦争」(政府・軍隊・国民)という、ナポレオン時代から続く戦争形態が、21世紀のウクライナ戦争でも続いているという指摘である。ドローンなどのハイテク兵器が投入されて話題を集めているが、戦争自体は「古い戦争」だとというのは興味深い。

また、やはり核兵器の威力は絶大だということも再認識した。西側諸国がウクライナに武器供与などの支援をしているが、戦争がエスカレートして核戦争に至ることを危惧してロシア本土を攻撃できる兵器の供与には躊躇している。イラクの例を引くまでもなく、核兵器を持たない国ならばすぐに西側に殲滅されていだろうに、まったく手を出せないのはまさに核兵器の威力であろう。北朝鮮が血眼になって核兵器に執着するのもわかる気がする。

この本を読んでも戦争の終わりは見えてこない。長期化は避けられないようだ。本書では「プーチンの野望」について紙面が割かれてるが、果たしてプーチンが失脚したら戦争は終わるのだろうか。

遠い国で起こっている戦争だが、類似の状況は台湾有事に見ることができる。ウクライナ戦争で日本の危機意識が高まるかと思ったが、相変わらずのんびりしている。もう日本はダメかもしれんね。