退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】橳島次郎『科学技術の軍事利用: 人工知能兵器、兵士の強化改造、人体実験の是非を問う』(平凡社新書、2023年)

科学技術と軍事開発は不可分であるということは論をを俟たない。

新しいところでは、コンピュータやGPS、インターネットなどなど軍事技術の果実が民間に還元された例に枚挙にいとまがない。この本では、それをアレクサンドロス大王の時代にまで遡り、歴史的に俯瞰的に視ている点が面白い。

この本では、そうした「軍民両用技術」について生命倫理の立場から問い直そうという試みがなされている。アメリカやフランスからの引用が多いが、日本でもそうした取組みが必要になってきている。

日本では、日本学術会議が大学が軍事研究に関わることへの反対声明を出すなど、軍民両用の研究へは反対も根強い。しかし科学・技術と軍事開発はつねに不可分のものとして発展してきた歴史を見るとそうした反対はナンセンスであると思える。

とくに興味深かったのは、人間の指令なしに識別した敵を殺傷する「致死性自律兵器」についての言及である。すでに技術的には、そうした兵器の開発が容易になってきているのはまちがいない。自律的に行動するロボット兵が戦場に投入される日も遠くない。

米仏の議論を見ると、倫理的な理由により、新しい軍事技術にさまざま条件を課す勧告を行っている。しかし、いわゆる「独裁国」ではどうだろうか。倫理的な視点より、独裁者の利益が優先されること想像に難くない。民主主義国家が軍事的に不利になりはしないかという懸念もある。

将来の戦争はどうなってしまうのかとも思うが、最近のウクライナ戦争をみるといまだに塹壕戦をやっている。人間の進歩は意外に緩慢なのかもしれない。

余談になるが、もはや最新の軍事技術はSFの領域に至っている。どうせなら、こうした軍事技術が登場したSF作品をいろいろと紹介してくれると読み物としてはさらに面白かっただろう。