退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】多田将 『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』(イースト新書Q、2015年)

人類史上最強の兵器である核兵器。この本は政治的・倫理的な是非は一切問わず、純粋に物理学の観点から、その凄まじいメカニズムに迫っていきます。面白く読みました。

著者は高エネ研に所属する素粒子物理学者ですが、それに似つかわしくない風貌でテレビ出演していたのが見かけました。そのときに紹介していたのが本書でした。

どこかのカルチャーセンター(?)の講演をまとめた本なので、一般向けでとても分かりやすい内容です。前提知識としては、高校の物理・化学を少しかじっていれば十分でしょう。余談ですが高校物理から原子分野がしばらく消えていたと聞いてびっくりしましたが、新課程では復活したそうです。

この本では、原子の構造から始まり、核分裂、連鎖反応、核燃料といった核兵器に必要な要素を順に説明していき、この知識を使って最後に核兵器を作って爆発させるという趣向です。もちろん本の中での話です。

面白かったのは、広島に投下された原爆(リトルボーイ)はガンバレル型なので形状が細長いのに対し、長崎に投下された原爆(ファットマン)はインプロージョン型なので文字通り丸っこい形をしていたということ。構造が異なるんですね。そしてプルトニウムをコアにしたガンバレル型の原爆も開発されていて、そのコードネームは「Thin Man」と呼ばれていたそうです。アメリカは昔からすごかった。日本が戦争してはいけない相手でした。

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この本を読んで思ったのは、日本が本気出したら政治的・倫理的な是非は別にして、あっという間に核武装できるじゃないかということ。人材も技術も十分に蓄積されているように思いました。

米大統領を目指すトランプ氏は、日本からの米軍を引き上げるとか、日本の核武装を容認するなどを言っています。トランプ大統領が現実になったときには、日本も核武装を真剣に考える時期が来るのかもしれません。

最後に「ミリタリーテクノロジーの物理学」のシリーズ化の可能性もあるとのこと。いずれ核兵器以外の兵器についても出版されるかもしれません。気長に待ちたいと思います。

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