退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】小野寺拓也, 田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット、2030年)

タイトルが絶妙に上手い。そのおかげかとてもよく売れてるらしい。本が薄いくて読みやすそうなのも功を奏しているようだ。

冒頭でナチスが成立した経緯をわかりやすく説明している。ナチ党には、国民社会主義ドイツ労働者党という訳語があてられているが、本来の「社会主義」とはちがい特異だとしている視点は新鮮だった。

その後、ナチスの個々の政策を紹介しながら評価を下している。紙幅がないためか解説が表面的な部分もあるが、ナチスの政策を概観するには十分だろう。

ただし政策の評価基準には納得いかない。「新規性がない」「前例があった」からという理由で低い評価となっている政策がいくつかあった。新規性の有無にかかわらず、結果を出せたかどうかで評価されるべきである。

それならば手厚い「福祉政策」が尻窄みになったのは、戦況のせいとも言えるし、戦争に負けたから政策が失敗したのはどう評価するのだろうと言いたくなる。

ヒトラーは千年帝国を構想していたという。ドイツが戦争に勝利して、欧州でいまなおナチスが君臨しているという「もしナチ」ドラマはいくつかある。もしそうなっていれば、少なくとも「民族共同体」の構成員にとっては「良いこと」だらけだったはずだ。

最初にタイトルが絶妙だと書いたが、読後、そもそも「良いこと」というのは誰にとってなのだろうと考えてしまった。万人にとって「良いこと」「悪いこと」なんて決めることはできない。まあ戦争に負けたから「悪い」とは言えるだろう。

岩波ということもあり、「ナチスに良いことなんてなかった」という論調なのは事前に予想できた。それでも知的好奇心をある程度満たしてくれるし、筆者の専門家としての矜持がところどころに垣間見えるのはよい。オススメします。