こうの史代のコミック『この世界の片隅に』(全3巻)を読み終わりました。片渕須直監督による同名の劇場アニメを見てから、原作が気になって手にとりました。本作は『漫画アクション』に連載されていた作品ですが、最近、気になる作品が『漫画アクション』の連載作品あることが多いので驚いています。

- 作者:こうの 史代
- 発売日: 2008/01/12
- メディア: コミック

- 作者:こうの 史代
- 発売日: 2009/04/28
- メディア: コミック
舞台は戦中の軍都呉市。広島市から呉市に嫁いだ主人公・すずが、嫁ぎ先の家に溶け込みながら過ごす日常が描かれます。やがて呉にも戦争の影が迫り、空襲、原爆投下、そして終戦を迎えます。戦争がもたらす暗闇が、ひとりの女性の心を蝕んでいく様子が独特なタッチで綴られていきます。
作品を読んでまず思ったのは、「神は細部に宿る」という言葉です。詳細な調査の成果なのでしょう、戦中の日常が極めて緻密に描かれいるのが印象的です。日常の細かい描写が作品の世界観をつくっているため、その上で動く登場人物が活き活きとしているのでしょう。
またコミックには日付が書いてあり、原爆投下、終戦に向けてカウントダウンしていくのも効果的でした。日常を描いているドラマですが、時間的な締め切りが読者にあらかじめ知らされているのがユニークです。
大きな事件もなく終わるかと思いきや、すずの利き手が姪の命とともに失われる事件は衝撃的です。私は原作を読む前にアニメを見ていたので知っていましたが、爆発の音がするわけでもないコミックでこれほどの表現ができるのだと感心しました。
夫の周作とともに戦争孤児を連れて呉の家に戻るという結末も、明るい未来を感じさせ後味によいラストでよかったです。
個人的には、こうしたコミックが海外で通用するのかいうことに興味があります。アメリカはちょっと無理かもしれませんが、ヨーロッパではウケそうな気もします。翻訳が大変そうですが……。
余談ですが、アニメ版についても少し書いてみたいと思います。私がアニメを観たのは、今年の1月でしたが、公開された昨年秋に別の映画を観るためにユーロスペースに行ったとき、立て看板があって「こんな映画やっているんだ」と思いました。公開後、のんによるプロモーションが奏功したこともあり、作品が評価されて全国展開で上映されました。近所のシネコンで上映されていたのでそこで観ましたが、大変な混雑だったのを覚えています。
私はアニメを先に観てから原作を読みましたが、思い起こすとこの原作からアニメ化した手腕に驚かされます。技術的なことはわかりませんが、とても丁寧につくられたアニメでした。主人公・すずの声を演じた、のん(元・能年玲奈)も原作のイメージにあっていて、ナイスなキャスティングです。
後日、ユーロスペースに行くと、大々的なポスターがあったので、「ああ、ヒットしたんだな」と思うと同時に、こうした作品が評価される日本もまだ捨てたものではないな思いました。