退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

コミック『七帝柔道記』を読み終わったが…

原作は増田俊也による圧倒的な筆力で描く自伝的青春群像小説『七帝柔道記』だが、数年前に面白そうだと手にとったとき580ページという大部だったので読むのを躊躇した記憶がある。

その後、どこかで一丸の作画でコミカライズした漫画本を1巻だけ読んだ。つづきを読みたかったが、そこにはなく悶々として1年ぐらい経った。ふとしたことで全6巻をまとめて読むことができた。

戦前行われていた寝技中心の高専柔道を受け継いで、旧帝大7大学で実際に行われている「七帝柔道」を題材にしている。主人公・増田は、「七帝柔道」に憧れて2浪の末に北海道大学柔道部に入部する。かつては強豪を誇った北大柔道部はいま最下位を続けるほど低迷を極めていた。「寝技は練習量が必ず結果に出る」という言葉を信じて限界まで練習量を増やしていくが……。

これぞ青春漫画という一作。「なぜ北大に来てまで、将来柔道で食っていくわけでもないのにこんなに苦しい練習をしなければならないのか」と泣く場面がある。まさにそのとおり。その点はまったく理解できない。これが「青春」なのだろう。

冒頭、1年先に北大に入学した同じ高校の柔道部の同期が登場するが、彼はすでに柔道をやめて大学生活を満喫していた。柔道にとことん青春をつぎ込む主人公との対照的な人物として登場する。それでも友人関係をつづけていたが、柔道部の先輩を馬鹿にされたことを主人公が怒ったことを契機に疎遠となる。カタギの人と柔道部員とのちがいを見せつけるエピソードである。

また広い北海道大学のキャンパスが魅力的に描かれているのも評価したい。主人公が入院して病院の屋上から見下ろす北大キャンパスが美しい。そのなかで個性的な部員たちに囲まれて成長していく主人公の姿も素晴らしい。

ただし漫画としては、寝技が地味すぎるのか躍動感に欠ける。とういうか、何が起こっているのかを把握することすら難しい。それよりなにより、この漫画版には致命的な欠点がある。

上質の青春漫画としては楽しく読んでいたが、なんと主人公が2年生の時点で打ち切れている。北大は負けっぱしである。これから北大柔道部がいかに復活していくのかが、まったく描かれていない。主人公が大学生活のすべてをを柔道に捧げて、その後中退するまでを描かないとウソだろう。

途中から6巻では短すぎないかと疑問に思いながら読んでいたが、やはり完結していない。「俺たちの戦いはこれからだ!」という終わり方には残念というか半ば呆れてしまった。つづきは原作を読むしかないのか。