少し前に『音大崩壊』という本を読んで、同じ著者による著書『「音大卒」は武器になる』の漫画版を見つけたので手にとって見た。
このような実用書の漫画版は申し訳程度に漫画ページがあって、あとは文字ばかりというモノも多いが、この本はちゃんとストーリー仕立ての漫画で読みやすい。絵柄も好みである。
音大でなくても、大学の専攻とまったく異なる分野で社会に出る例は珍しくはない。それでも音大や美大の場合は、とくに大変だろうということは想像に難くない。だれしもが音楽家や芸術家として生きていけるわけでもないだろう。
この本では声楽科の女子学生が卒業後の進路に悩む姿を通して、キャリア設計の大切さをわかりやすく紹介している。音大卒が培っているでだろう「強み」について細かく分析している点も興味深い。
漫画ということもあるだろうが、主人公が悩みながらもポジティブに考えて進路を決めてハッピーエンドになるあたりは安心して読める。終盤、卒業から数年後、登場人物たちの真摯に人生に立ち向かっている様子が描かれる。
そのなかに太い実家のあるピアノ科の女子学生が留学して夢に挑戦するのは、親ガチャという現実の厳しさを感じさせる。本書には、さすがに落ちぶれて生活に困るようになった人は描かれてないが、夢破れて人生の敗北者になった音大出身者の姿も容赦なく描いてほしかった。人生は甘くないんだと……。
この本は音大生だけでなく、キャリア設計を考えるすべての大学生に有用だろう。オススメです。