退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】大内孝夫『音大崩壊~音楽教育を救うたった2つのアプローチ~』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス、2022年)

銀行出身の著者が、音大が抱える問題点を指摘して、音大の生き残り策を探る。

冒頭、伝統校だった上野学園大学が学生募集を停止したことが取り上げられている。学園に内輪もめがあったことは風のうわさにきいていたが、まさか事実上廃校という事態にまで至っているとは知らずに驚いた。

最近は少子化の影響により、音大に限らずどこの私大も学生募集には苦労しているようだが、音大には音大ならでは事情があるらしい。女子学生の社会進出が当たり前になったことから、進路として音大が敬遠されてようなったという分析である。入学する学生が年々減り経営難に陥っている音大も多い。このままでは音大がこぞって経営破綻する「音大崩壊」という事態が危惧される。

本書ではこうした状態が続けば、日本の文化・芸術の基盤が崩壊すると警笛を鳴らしている。しかし私には随分飛躍した議論に思えた。音大が日本の新しい文化・芸術に適応できていないだけのように思える。

それでも最近は、「ポップス科」「ミュージカル科」「声優科」のような、従来のクラシック音楽偏重の音大には見られなかった動きも見受けられる。音大も生き残りに必死なのだろう。

また行政機関に「スポーツ庁」はあるのに、「音楽庁」がないのはおかしいと問題提起しているのは面白い。音楽に限定しなくても「芸術庁」がスポーツ庁に並んで設置されていてもいいとは思う。スポーツ界は連帯しているの対し、音大はバラバラに動いていて業界団体すらないというのも新しい気づきだった。

ただ、究極的には「音大卒」が産業界で役に立つかどうかカギにように思う。これまで、楽器演奏に膨大なエネルギーを注ぎ込んできた粘りは貴重だろうし、芯の強い人が多いようにも思える。語学に秀でている人にも通底する資質だろう。ただ知っているサンプル数が少ないのでたしかなことは言えないが……。

いまは就職支援に力を入れる音大も多いという。やはり中長期的には音大卒が一般社会でいかに活躍できるかが問われているのだろう。