音楽評論家のスージー鈴木さんの自伝的な小説、または回顧録というべきか。人生最期の瞬間に恋するラジオに誘われて、時空を超えた音楽の旅に出かけるという趣向。
1966年生まれの筆者と同じ世代の音楽好きには響くだろう。とくに東京で青春期を過ごした人には風景の描写も刺さるはず。そうでなくてもアリス、サザンオールスターズ、山下達郎、小沢健二、クイーン、そしてビートルズと比較的メジャーなアーティストの楽曲を取り上げているので広い読者にもわかりやすい。
年代ごとにショートストーリーを連ねる構成でテンポよく読めるのはよい。何かの連載だったのだろうか。なるべく小説に登場する楽曲を聞きながら読んでみた。ぜひ楽曲を流しながら読むことを勧めたい。
当時の東京の大学生も描写もちょっといい。主人公ラジヲが大学進学のために上京して、私大文系学生が暇をもてあますなかラジオ業界に関わるあたりは、ラジオ好きで同じく大学進学で上京した私としては本当にうらやましい。なぜ溝の口に住んでいたのか謎ではあるが……。
人生最期の瞬間から人生を振り返る回想に移り、再び戻ってくるというのあまりにありきたりだが、それを追求することはよそう。最後ビートルズに帰着するのは、筆者の年齢を考えるとちょっと驚いたが、それだけビートルズが時代を越えて偉大だということだろう。
余談だが、有名な楽曲が多いなかで「これはさっぱりわからん」という楽曲があった。1988年にラジヲが19歳で聞いたという、ザ・シェイクスの「R.O.C.K TRAIN」である。忘れていただけかもしれないが、これは初めてきいた気がする。
この曲は、当時筆者が「一生忘れない」と思ったそうだが、誰にもそうした曲があるものだ。私にとって、それは何かなと考えてみた。数人の女性アイドルとジューシィ・フルーツ、そして近田春夫の楽曲が思い浮んだ。我ながらあまりにも貧弱な音楽体験でゲンナリする。私の青春も同じように冴えなかった。それでも楽しかったのは疑いようがない。