DVDで映画『利休にたずねよ』(2013年、監督:田中光敏)を鑑賞。原作は山本兼一の時代小説。主演は市川海老蔵。
茶人・千利休(市川海老蔵)は、屋敷を3000人の兵に囲まれて茶室で切腹の日を迎える。妻・宗恩(中谷美紀)は、利休の胸中にずっと想い人がいるのではないかと訝しがっていた。利休は否定するが、彼の心に影を落とす女はいた。若い頃、利休が殺した高麗の娘(クララ)だった。その女の形見である香合を肌身離さず持ち続けていた……。
切腹当日から時系列をさかのぼり、短いエピソードを重ねながら利休の美学の源を探っていく構成はうまい。とくに前半はなかなかよくできている。しかし後半以降、利休と高麗の娘との間に起きた事件が謎解きのように語られるあたりから、映画としての流れが乱れる。
途中までは短いエピソードをつないでテンポよく描かれていたのに、この事件だけ延々と尺がとられていてやたらと重たくてバランスが悪い。たしかにこの事件がメインイベントなのだろうが、もう少し脚本を工夫できなかったのか。
そして問題は、ざっくりいうと高麗の娘との事件の恨みを晴らすことが利休の茶道の根源になっているように描かれていた点だ。利休はそんな人物ではないだろう。映画を見ている限りはどうも納得できない。原作を読むとまたちがうのだろうか。
主演の市川海老蔵は原作者のご指名だったらしいが、なるほど若い頃のやんちゃぶりなとは作中の利休と重なる部分があるし、実際海老蔵の鬼気迫る熱演も素晴らしい。そして利休の妻を演じた中谷美紀の落ち着いた声もよかった。さらに特筆すべきは大森南朋が扮する豊臣秀吉。成り上がり者の下卑た雰囲気がよく出ていた。秀吉は多くの役者が演じているが大森の秀吉はかなり上位にランキングするだろう。
また茶道を通して「美」を追及する映画ということもあり、本作は美術や撮影がとくに重要な作品だったが、映像はとても美しく撮れている。ぜひ映画館で見たかった。
出演者と映像は水準を越えていた分だけ、脚本がイマイチなのはいかにも惜しい……。そんな映画である。