DVDで映画『太平洋ひとりぼっち』(1963年、監督:市川崑)を鑑賞。1962年、堀江謙一は約3か月かけて小型ヨット「マーメイド号」で太平洋単独無寄港横断に成功した。この航海の顛末をまとめた手記の映画化。石原プロモーションの映画製作第1回作品。もちろん主演は石原裕次郎。
「石原裕次郎と海」ということで企画されたのだろうが、冒険モノとしては温度が低く淡々と流れていく。いちばん描くべきは航海中の孤独だと思うが、映画ではそれが難しいと痛感させられる。どうしてもモノローグと回想の繰り返しになってしまうのは仕方ないのかもしれないが、別のアプローチはなかったのなと思ってしまう。
市川崑による凝った構図などに芸術性が現れているが、この類の映画で石原裕次郎が主演しているのは似合わないと思ってしまう。裕次郎がこの作品に惚れ込んでいるのはわかるがミスキャストだろう。裕次郎はバカ映画でこそ輝くのではないか。
いちばん気になったのは裕次郎のエセ関西弁。わたしはネイティブでなく数年関西に住んでいただけだが、コレジャナイ感が溢れている。この気色悪い関西弁で航海中のモノローグが演じられていて正直ゲンナリとしていた。ネイティブの意見も聞いてみたいところ。
よかったのは回想シーンの母親役の田中絹代の演技の上手さ。涙なく観れない。本当にすばらしい。ただし回想シーンを見ただけでは、主人公がなぜこれほどまでに太平洋横断に傾倒していたのか伝わってこない。動機がよくわからないのである。
シーンの端々に堀江謙一の偉業がわかり興味深い。とくに一時的な情熱に動かされて無計画に航海に出たように思えるが、実に用意周到に計画されていた点は興味深い。準備段階をもっと丁寧に追っていくだけでも、もっと面白い映画になったではないか。
それでも太平洋横断に成功してサンフランシスコに到着して、アメリカの人たちにちやほやされるあたりは、裕次郎のスター性が出ていてさすがだと思わせる。不法出国、パスポートなし、不法入国がどう処理されたのかも気になるが、細かいことは触れずに、文字通り航海の垢を流してさっぱりしてところで終わるのは後味がよい。