石原慎太郎氏の追悼の意味を込めて、先日映画『太陽の季節』(1956年)を見たが、その勢いで映画『狂った果実』(1956年、監督:中平康)も鑑賞する。原作は石原慎太郎の短編小説、主演は実弟の石原慎太郎。裕次郎の実質的なデビュー作であり、後に結婚する北原三枝との初共演作でもある。日活映画。白黒映画。
ブルジョア一家の兄・夏久(石原裕次郎)と弟・春次(津川雅彦)の兄弟は、駅で美女恵梨(北原三枝)と出会う。春次が一目惚れしたことを見抜いた夏久は世話を焼いて二人はカップルとなる。しかし恵梨には、自分は人妻だという秘密を抱えていた……。
出演者たちの演技は初々しいのか、たどたどしいのかわからないが、その素人らしさが作品の雰囲気に合っていて、作品そのものは大きく破綻することはない。カット割が細かいし、セリフも早口で忙しい映画である。
人妻を兄弟で奪い合うことがさも重大事となるのは当時の価値観だろう。いまならばどうということのない設定である。
ただし衝撃のラストの突き放し方は見事。トリュフォーが絶賛したというのも頷ける。ヌーヴェル・ヴァーグの影響を強く受けた日活映画であり、このあたりも時代を感じさせる。
いま改めてみると、裕次郎が弟役を演じればよかったのにと思った。当時そういう話もあったというが、実現しなかったのは少し惜しい気もする。