退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】伊藤弘了『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所、2021年)

書店で見かけて手にとってみた。「教養としての映画」と銘打ってあるので、これはスノッブな本かなと警戒しつつ思い読んでみた。結構分厚いし……。内容は「映画鑑賞入門」というところ。

私は映画はかなり観ているほうだが、「映画なんて楽しく見れればいいんじゃね」と思う一方で、映画論や歴史知識など背景知識を持っていると、より一層深く鑑賞できるはまちがいない。これは映画に限ったことではなく、文学や音楽、美術など他の分野でいえることだが。この本一冊で映画についてのざっくりとした知識は得られる。

冒頭、時代のふるいを経てきた「古典映画」の価値について言及していてなるほどと思った。しかし実際に人に勧めてみると「いろいろ古くて無理」という反応が返ってくることも多い。

たしかに私が好きな50年代から70年代あたりの映画は、現代の映画とはちがう「鑑賞法」が必要だし、観る人もある程度は慣れてもらうしかない。結構ハードルが高い。まあこれも他の分野のコンテンツも同じだろうが、どう解決していけばいいものか。

後半は、いろいろな映画のテクニック論が紹介されている。いきなり細かい話になったなと思ったがユニークな視点もあり勉強になった。ただ映画論を書籍で読むことの限界も感じた。やはり映画を抜粋を観ながら解説を聞きたい。現代の技術ならば、ネットコンテンツとしてそうしたことも可能ではないか。これは先日、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』同時鑑賞&ティーチインイベント」というネット上の特番でも感じたことである。

巻末に「必見!! 世界と日本の名作映画111選」という資料がついていた。古い映画はたしかに「古典」と言われる作品で「必見」というのに異存はないが、新しいものはまだ評価が定まっていない作品も並んでいる。著者のオススメなのでそれはそれでいいが、「必見」かどうかはあやしい。とくにドキュメント映画は鑑賞するのに別のスキルが必要となるかもしれない。

この本は大学生向けの講義がベースになっているのだろうが、学生時代にこうした講義に触れる機会があったらよかった。そんなことを思った。

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