退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『浪人街』(1957) / 時代劇の画期となった古典的映画

DVDで映画『浪人街』(1957年、監督:マキノ雅弘)を鑑賞。マキノ正博名義で1928年に制作・公開された『浪人街 第一話 美しき獲物』の三度目のセルフリメイク作品になる。主演は近衛十四郎

ふたりの浪人、赤牛弥五右門(河津清三郎)と母衣権兵衛(藤田進)は、ふとしたことから同じく浪人・荒牧源内(近衛十四郎)と知り合う。源内は女スリのお新(水原真知子)に貢がせてヒモとしてグータラに暮らしていた。赤牛は、浅草の三社祭りの日、旗本・小幡兄弟(石黒達也、竜崎一郎)と揉め事を起こし、この騒動に巻き込まれたお新が小幡兄弟に人質に取られてしまう……。

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従来の勧善懲悪や因果応報に縛らていた旧来の時代劇映画から、ただ惚れた女のため、そして出世への打算のために死地に赴くという、人間的かつ現実的な人物描写を採り入れた映画に進化している。時代劇ファンとしては記念碑的作品であり、古典として一度は見る価値がある。

それでも当時としては斬新な切り口だったのかもしれないが、いま見るとさすがにいろいろ古い。とくに殺陣は妙に大仰で芝居がかっていてリアリティがない。近衛十四郎は、殺陣の上手い役者さんというと必ず名前の挙がる役者ではあるが、いまでは古典としてみないと現代の観客にはなかなか届かないだろう。

映画で興味深かったのは、たびたび登場する酒場の美術。酒樽がずらりと並んでいる佇まいがちょっとよかった。いまでこうした内装の居酒屋があったら面白いだろう。

この『浪人街』は1990年、黒木和雄監督によりリメイクされていて、源内を原田芳雄、赤牛を勝新太郎が演じている。こちらは当然ながら現代的な演出になっている。

余談だが主演の近衛十四郎松方弘樹の実父。やっぱり似ているなと改めて思った。血は争えない。