退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『地図のない町』(1960) / 中平康らしからぬ社会派サスペンス

DVDで映画『地図のない町』(1960年、監督:中平康)を鑑賞。日活映画。白黒映画。主演は葉山良二。

医師である戸崎慎介(葉山良二)が、ある目的を持ってスラム街東雲町にやってくる。慎介は善良な老医師・笠間(宇野重吉)の診療所で働くなかで、町の人たちの温かさに触れる。この地域は暴力団・梓組が牛耳っており、警察も尻込みする始末。そんな折、梓組組長梓米吉(滝沢修)は東雲町を地上げして市営アパートを建て一儲けを目論む。追い出される住民は怒り梓組と激しく対立する。笠間は住民代表として梓組に向かうが……。


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モダン派と称された天才監督・中平康らしからぬ硬派な社会派サスペンス。なにかしら黒澤明監督の初期作品のような雰囲気があると思ったら、巨匠橋本忍が脚本を担っていた。

本作は当初、石原裕次郎主演作として企画されたが、裕次郎のイメージではないと日活に却下されて、結局、日活第2期ニューフェースの葉山良二で撮られたという。社会派の地味な作品より、若さが溢れる明るい作品が会社側が持つ裕次郎のイメージだったのだろうか。いまとなっては知るべくもない。

主演葉山の驚くときのわざとらしい演技はどうなかと思うが、滝沢修南田洋子吉行和子宇野重吉など重厚なキャストによる名演は見応えがある。いま振り返れば、裕次郎主演で撮っても面白かったのではないか。

映画としてはよくできている。社会派ドラマの傑作としてオススメしたい。