退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『翔んだカップル オリジナル版』(1983) / 相米慎二監督デビュー作にして薬師丸ひろ子の初主演作

DVDで映画『翔んだカップル オリジナル版』(1983年、監督:相米慎二)を鑑賞。1980年に劇場公開された『翔んだカップル』のディレクターズ・カット版に当たる。相米慎二の初監督作品であるとともに、角川映画野性の証明』で映画デビューした薬師丸ひろ子の初主演作でもある。原作は柳沢きみおによる同名漫画。

田代勇介(鶴見辰吾)は、九州から進学のため上京し、北条高校に入学してくる。留守となっている叔父宅の一軒家にひとり住まいだ。不動産屋に同居人さがしを依頼していたが、手違いで同級生の山葉圭(薬師丸ひろ子)と同じ屋根で暮らすことになるが……。

翔んだカップル(1)

漫画原作で「クラスメイトが二人きりで「ひとつ屋根の下」に住む」というありきたり設定のアイドル映画と思われていたが、相米慎二監督の死後、その存在が伝説となると評価が急上昇した作品。

アイドル映画ゆえの制限の多いなか、監督の作家性が強く打ち出しているのは大したもの。監督の持ち味である長回しも特徴的だが、台詞のあいだに流れる空気感が本作の真骨頂だろう。アイドル映画とは思えない雰囲気。それでいて興行的にも成功したというからすごい。

まあDVDのジャケットのスチルを観ると、薬師丸はおよそ美少女とか美人とは言えないが、スクリーンなかでは抜群の存在感を発揮していることに驚かされる。とくに薬師丸の「愚かね」という台詞はいま聞いても印象的。彼女のその後の活躍は、相米監督の影響も大きいのではないか。

共演者を見ていくと、鶴見辰吾は薬師丸の芝居を受けきれていいないのはちょっと惜しい。個人的には 尾美としのりの芝居がすごくよかった。同棲を密告するあたりはしびれる。また石原真理子は本作がデビュー作だが、薬師丸よりずっと大人で美人に撮れている。着替えシーンはサービスショットだろうが、いまでもドキッとさせられる色気がある。

不思議なアイドル映画と言えばそれまでだが、出演者の多くがその後役者として成功していることを考えると、本作は意義のある作品と言ってもいいのだろう。

余談だが、「翔んだカップル」はテレビドラマにもなっている。本作とは異なり、NG場面をふんだんに取り込んだコメディータッチのテレビドラマドラマで、ヒロインの山葉圭役を桂木文が演じていた。薬師丸よりずっとかわいらしく好みだった。まあ思い出補正されている可能性も高いが……。

ひと粒 桂木 文 熱写集