東京国立近代美術館フィルムセンターの《特集・逝ける映画人を偲んで 2015-2016》で映画『愛と誠』(1974年、監督:山根成之)を鑑賞。少年マガジンに連載された、梶原一騎原作・ながやす巧作画による人気劇画の実写映画化。
当時人気アイドルだった西城秀樹の主演で映画化が決まるが、相手役のヒロインのキャスティングが難航。一般公募のオーディションにより役名をそのまま芸名にした早乙女愛が選ばれた。本作が彼女のデビュー作となり、垢抜けないものの瑞々しい容姿を見せている。
映画はアイドル映画の域を出ない。幼い頃に運命的な出会いをした太賀誠(西城秀樹)と早乙女愛(早乙女愛)が、高校で再会して繰り広げられる学園映画。学園モノなのだが、高校生として出演しているモブたちがまったく高校生に見えないところに時代を感じる。こうしたアイドル映画の場合、ベテランが脇を固めるものだが学校が舞台だとなかなか上手くいかないのだろう。
冒頭のスキー場での事故のシーンの鈴木清順のような演出でちょっと面白いし、遊び心のある映像が斬新な印象を受けるシーンもある。しかし予算もあまりなかったのであろう、ボクシングのリングがショボすぎるなど総じて寒々しい映画である。
アイドル映画で映画の出来をあれこれ言っても仕方ないが、劇画ではすんなり受け入れられたセリフが、実写映画では滑稽に響いて観客の笑いを誘っていたのは面白かった。70年代の観客はこのような「純愛路線」がどうのように受け入れられたのだろうと思いを馳せる。なかでも愛に想いを寄せる岩清水弘 (仲雅美)の吐く名セリフ「きみのためなら死ねる!」が印象的。
本作は原作の導入部にあたり、これから何が起こるのだろうと期待させるが、学生同士の乱闘のさなか、誠が気絶した愛をお姫様だっこしながら去っていくシーンで終る。この映画のヒットを受けて続編が2本つくられている。早乙女は引き続き愛役で出演しているが、西城が誠役を演じたのは本作のみ。続編ではそれぞれ別の役者が演じている。
男性諸氏としては、本作はヒデキより早乙女愛のデビュー作として注目したい映画である。このおよそ10年後、山城新伍監督の映画『女猫 』(1983年)で清純派女優から大胆な転身を図り話題となった。こうした早乙女の以後の女優遍歴を踏まえて本作をみるとより楽しめるのではないか。私自身はテレビドラマ「ザ・ハングマン」シリーズでエアロビクス(死語?)を踊っている姿がいちばん記憶に残っている。その早乙女は2010年に他界している。時の流れは速い。
さて今回誰の追悼かと思いフライヤーを見ると、名バイプレーヤーとして活躍した三角八 郎を追悼する上映だった。本作では早乙女家に仕え、愛の登下校の送り 迎えをする西田運転手を演じている。