これまで「ひきこもり問題」と言えば、若年層の問題だとされていた。しかし2018年の内閣府の調査によれば40歳から64歳までに中高年ひきこもりは61万人を超えるという。この報告書は衝撃をもって報道され、にわかに中高年ひきこもりの問題が脚光を浴びることになった。それを受けて「中高年ひきこもり」を取り上げる本が何冊か出版された。この本もそのなかの一冊。
中高年ひきこもり―社会問題を背負わされた人たち― (扶桑社新書)
- 作者:藤田 孝典
- 発売日: 2019/11/02
- メディア: 新書
第1章「中高年ひきこもりとは何か」を読んだ段階ではやや不満だった。問題の実態がモヤモヤとしてあいまいに思えたからだ。「中高年ひきこもり」の定義すら明確でないし、それを調査したデータも十分にないので俯瞰的かつ網羅的な分析ができないという。この本はそうした目的で書かれたものではないと断っているが、やはり全体像の把握は必要であろう。
この問題に限らず、なぜ日本は社会問題が起こったとき、過去に遡って現状分析できるだけのデータが揃ってないないのだろう。いつも暗澹とした気分にある。
これに続く第2章「中高年ひきこもりの実態」はすばらしい。本書のいちばんの読みどころと言える。筆者が現場に近い立場にいるからだろうか、当事者たちにインタビューして「中高年ひきこもり」の問題を浮き彫りにしていく。知らない世界が眼前に広がっていき有益であった。
ひきもりの要因は多様であるが、一例として次を取り上げていて問題が複雑なことが伝わってくる。
第3章「なぜ中高年ひきこもりが生まれるのか」では、ひきもりの発生要因について考察しているが、やはり局所的であり手の届くところの経験をもとにしていて、広く社会全体の問題として捉えられていないと感じた。
第4章「中高年ひきこもりにどう向き合えばいいのか?」では、行政の相談窓口をはじめとする関連機関を紹介しながら、支援者や当事者たちの集まりなどを紹介している。同時にひきもり問題に対する提言がまとめられている。
この本では、全体として社会問題のしわ寄せが「中高年ひきこもり」に現れているというトーンでまとめられている。たしかに現代の日本社会にはひずみが多く、解決すべき問題点は多いだろう。
しかし、この問題が他の問題と比較してどの程度深刻で、放置しておくとどの程度の悪影響が社会にもたらされるのかはっきりしない。つまり優先順位は高いのか低いのかよくわからないのである。昨年の川崎殺傷事件への言及もあるが、この問題との関連性ははっきりとしていない。
日本が凋落していくなか、全体のリソースは限られている。そうした状況では、これからの日本を背負う子どもたちや若年層へ優先的にリソースを割り当てるのが効率的だと思われる。こういう表現は語弊があるかもしれないが、この問題は全体像を把握したうえで、社会への不利益が最小限にする手段を講じた上で「損切り」するしかないのではないか。
この問題については、まだまだモヤモヤする点が多い。さらに何冊か本を読んでみようと思う。