退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】古市憲寿、トゥーッカ・トイボネン『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』(マガジンハウス、2015年)

「高い教育水準と高福祉」のイメージが強い北欧の国・フィンランド。日本でも理想の国と考える人は少なくないだろう。また逆にこうしたイメージに疑問を感じている人も少なからずいるかもしれない。その双方の人たちにとって、フィンランド社会の実像を把握するのに役立つ本である。

国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由

国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由

この本は、「総論」「教育」「若者」「イノベーション」の4つの章から成り、各章の前提知識を整理する冒頭と章の「まとめ」を古市が担当していている。その上でフィンランドの研究者の論文が掲載されている。古市の執筆している部分は小口が青くなっているので、そこから読み始めて、その後に興味を持ったパートの論文を読むという読み方でもいいだろう。

通読して、とくに興味深かったのは「フィンランドはもはや高福祉国家ではない」という事実である。世界を覆うグローバリゼーションの波にフィンランドだけが抗うことができるわけもなく、社会が変容していく様子が紹介される。

同時に高い教育水準と評判の高い「教育大国」というのも、実態はかなりイメージとは違うことが明らかにされる。さらに日本と同じようにニートや落ちこぼれも問題が顕在化していることも分かる。それでもフィンランドの若者は幸せそうだ。

この本はフィンランド社会について多方面を網羅しているが、各分野について日本と対比することでフィンランドから学ぶことは少なくない。歴史上、挫折を繰り返しながらも小国がその都度立ち直ってきたのには、やはり理由がある。少なくともこの本を読めば、「北欧ではあーだ、こーだ」というような盲目的に理想の国に祭り上げるのは止めることができるだろう。

余談だがこの本を読んで、いままでボンヤリしていたスカンジナビアの国々の位置関係や歴史がはっきりした。この本を読んでいる時期に、同時にオーサ・イェークストロム『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』というコミックエッセイを読んでいたのせいもある。こちらの作者はスウェーデン出身。

この本には大きな帯がついていた。いつもは帯は捨てるのだが、これを外すと一見して何の本が分からなくなるのでそのままにしてある。

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