退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】桝田智彦『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』(青春新書インテリジェンス、2019年)

「中高年ひきこもり」関連で手にとった3冊目の本。このなかには「中高年」と謳っているわりに、中高年に特にフォーカスしていない本もあったが、本書はタイトルに偽りなし。

この本の筆者は臨床心理士。心理学の専門家の立場から支援策を論じている。なるほどと思ったのは、ひきこもりは経済的問題であると同時に「心」が関わっているという点。その視点から、ひきこもりの支援には臨床心理士が圧倒的に不足していると指摘している。

この点は我田引水の感もあるが、問題提起としては重要だと感じた。少し驚いたが、臨床心理士による心理カウンセリングは健康保険の対象外になっているらしい。日本は「心」の問題を軽視してきたと看破しているが、そうかもしれないとあらためて思った。

これまで読んできた本でも言及があったが、ひきこもりは病気なのかどうかという問題は興味深い。病気でなければ健康保険が適用されないのは仕方ないし、臨床心理士は医療職なのだろうかという疑問もある。さらに医師との役割分担という問題もあるだろう。なわばり争いである。

この本の後半以降、「親育ち親子本能療法」なるものが熱く展開されている。療法というからには病気なのかという疑問はひとまず措いておくして、親子関係は重要だろうが、親子関係にあまりに強く言及しすぎているのではないか。親子関係もさまざまであり、すべての事例の適用できるわけでもないだろう。

さらに中高年にひきこもりにとっては、すでに親が他界していたり社会的行動力が衰退していらりする場合も多いはずである。そうした人たちはどうするのかと思って読んでいくと、「ひきこもり当事者の集まり」を紹介する程度であまり役に立たない。むしろ、ひきこもり本人ができることに重点を置くべきだろう。

終盤では、「生活保護の受給」「精神障害者保健福祉手帳の取得」について、“リアル”な話を少しだけ紹介している。ひきこもり本人にとってはこうした話が重要でないだろうか。

この本は総じて、アカデミックな訓練を受けた臨床心理士がこそが問題解決に貢献できるというトーンで書かれている。しかしながら、そうしたアカデミックな雰囲気が本からは伝わってこないのは不満。学会でのトレンドや学説の変遷などを噛み砕いて紹介してほしかった。

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