センセーショナルなタイトルと帯に惹かれて読んでみた。著者は医療少年院に勤務経験がある児童精神科医。いまは大学教員という安楽椅子にどっかと座っている。
- 作者:宮口 幸治
- 発売日: 2019/07/12
- メディア: 新書
読者の興味を引くために扇情的なタイトルはアリだと思うが、そのケーキのエピソードがなかなか出てこないので読んでいてイライラする。それでも医療少年院の実相は知らない世界を覗き見るという点で面白い。
本書の「つかみ」はいいとしても、その後の構成には不満がある。論を展開する前に用語を整理して読者に説明してほしい。「知能」「認知機能」などなど、これらの用語きちんと定義せずに話は始まらない。唐突に「なんとかテスト」がどうのこうの言われても実感がわかない。
さらに通読して感じたことだが、筆者の意見・印象がいきなり一般論に敷衍されているところ散見される。これはアカデミックに共用されている知見なのか、筆者の私見なのかよくわからないことも問題だ。また話がアチラコチラに迷走して非常に読みにくい。
本書のキーワードのひとつは「境界知能」であるが、そもそも「知能」とは何だだろう、測定可能なのか、どのように分布しているのだろう、などなど疑問は尽きない。大規模なテストは行えれているのであれが、追跡すれば筆者の仮説が検証できるのもしれない。
「境界知能」に分類されて反省できない少年たちが非行を犯すということであれば、なるほど主戦場は病院ではないだろう。長々と問題提起したあとに、申し訳程度に終章で学校で「コグトレ」なるもの実施することを提唱しているが、あまりにも紙幅が足りずにバランスが悪い。これは新書にありがちなことだが……。巻末に参考文献やブックガイドもないのも不親切。次はどこに行けばいいのか困る。
この本はバカ売れして続編が出ているようだが、タイトルの付け方が上手いのが勝因だろう。まあ出版社も商売だから仕方ない。