吉野源三郎による児童向けの教養小説の古典が始めてマンガ化された。発売以来、バカ売れしているとのことで手にとってみた。我ながらミーハーだと呆れるが、どうしても気になるので仕方ない。
- 作者:吉野源三郎
- 発売日: 2017/08/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
頭脳明晰な少年「コペル君」と、亡き父の代わりにメンター役を務める「おじさん」。そんなふたりの濃密なやりとりを通じて、生きる意味を説いていくという正直説教くさい本である。
全編がマンガ化されているのではなく、コペル君の周囲で起こる出来事をマンガにして、おじさんからコペル君への「ノート」はあえてテキスト(活字)として残す構成が効果的である。マンガパートは、古典や名著をテキトーにまとめただけの最近流行りの本とはちがって、よく練られていてマンガだけでも面白い。またマンガのふたりは原著より心理的な距離が近いように感じた。
またテキストの部分は、当時の児童向けとはいえ骨太の文章なのでラノベ慣れしている若い読者にとっては読むのが大変かもしれない。しかし自分の頭で考えるという意味ではこの試みは奏功しているように思う。
原著の初出は1937年(昭和12年)だが、貧困問題やいじめなどの人間関係の悩みなど現代に通じるテーマが取り上げられている。社会の本質はあまり変わっていないのかもしれない。私の好みを言えば、ナポレオンの生涯を扱ったパートをとくに面白く読んだ。
タイトルには「どう生きるか」とあるが、本のなかでこう生きろとか押し付けがましいところはない。終始自分で考えさせようとする姿勢が一貫している。
また著者の思想が反映されているのだろう、全編を通してやや左翼的に思える点も見受けられる。現代の子どもがこの古典を読んでどのように感じるのか訊いてみたいものである。