Amazonプライム・ビデオでで映画『サバイバルファミリー』(2017年)を鑑賞。脚本・監督は矢口史靖。主演は小日向文世。
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: Blu-ray
ある日、突然世界から電気が消滅。ライフラインや流通は機能せず、都市生活は破綻する。東京に住む鈴木一家(小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな)は、飛行機などの交通機関が停止したなか、自転車で母の実家、鹿児島を目指すが……。
明らかにポスト東日本大震災を意識した作品だが、「電気消滅」という不思議な状況下のドラマになっている。地震や津波、火事などで被災したわけでなく、都市とのものは健在だが、都市生活は破壊されるという設置はユニーク。
「電気消滅」した世界では単に停電しただけでなく、蓄電池も機能せず、あらゆる電気機器が作動しない。SF映画のように科学的根拠を追求するのは野暮というもの。一応「太陽フレア」の影響という謎理論で片付けれているが、細かいリアリティを気ににしないでサラリーマン家族のロードムービーとして楽しむのがよいだろう。
荒唐無稽な話であるが、細かいエピソードを丁寧に紡いで一本の映画にまとめる手法は見事。バカバカしネタもあるが、都市部で電気が消滅したらこうなるだろうなという「あるある」のエピソードはなるほどと思わせる。
これだけの事態になっても日本人は「ヒャッハー」と大きな暴動にはならない。日本人は一応秩序を保っているのは東日本大震災でも経験したことだが、やはり微妙に人々の心は荒廃して犯罪まがいの行動に出る人々も描かれている。震災のときも実情はこうだったのかもしれない。
父親役の小日向文世の演技は絶品。ほかに鹿児島まで道中、いろいろいな人に出会う。そのなかでアウトドア生活に精通した、意識高い系の一家(時任三郎と藤原紀香とその子どもたち)がちょっといい。言っていることは正しいのだが、どこか慇懃でムカつくという微妙な塩梅が絶妙。また養豚農家(大地康雄)との交流も心温まるエピソードで印象に残る。
ラスト近くでもうダメかと思う場面で蒸気機関車が登場する意外性もよかった。これなら電気がなくても大丈夫。監督が温めていたアイデアなのだろうが、本物のSLが走る勇姿は見応えがある。
ラスト「電気消滅」から立ち直った東京の夜景を背景に都会の喧騒が流れる。現代文明を完全否定しているのではないが、ときには都市生活の便利さから離れてはみたはどうか、という寓話として見るとよいだろう。派手はディザスタームービーを期待して見に行った人はフンガイしたかもしれないが、映画らしい映画だと思った。