有楽町スバル座で映画『かぞくわり』(2018年、監督: 塩崎祥平)を鑑賞。古都奈良を舞台にして日本の家族のあり方と、当麻寺の極楽浄土を描いた曼荼羅にまつわる伝説を融合させた意欲作。
制作発表から気になっていた作品。都内では単館上映だったこともあり、タイミングが合わなかったが、よくやく見に行ってきた。主演は宝塚歌劇団・元宙組トップ娘役の陽月華。映画初主演とのこと。半分ぐらいは陽月華が目当て。
画家になる夢に挫折した香奈(陽月華)は、38歳になるのに定職につかず、両親(小日向文世、竹下景子)とともに実家暮らしを続けていた。そこに妹の暁美(佃井皆美)が娘の樹月(木下彩音)を連れて出戻ってきて、一家の生活は大きく変化する。妹たちに見下された香奈は家に居場所を失っていく。ある日、香奈は神秘的な青年(石井由多加)に出会い、再び絵に没頭するようになるが……。
妹が戻ってきたことで一家が壊れていくあたりは強引ながら付いているのだが、当麻寺に伝わる当麻曼荼羅縁起・中将姫伝説の姫が、主人公の香奈だったというファンタジー設定は理解不能。ついには周囲に爆発が起こり停電するに至っては「うーん」と唸るばかり。
そもそも冒頭にテロップで伝説を読まされるのがツライ。物語のなかで自然な流れのなかでそれとなく観客にインプットしてほしいものだ。
それでも出戻ってきた妹たちが実家の"ゴミ”をどんどん捨てて「断捨離」するあたりはちょっと面白い。実家の整理をもっと詳しく描いても面白かったかもしれない。
出演者では、両親役に小日向文世と竹下景子が出演しているが、見せ場が少ないのはもったいない。とくに竹下はマルチ商法に熱中するオカシイ人に描かれているのは残念。もっとふたりの重厚な芝居が見たかった。家族がつながりを回復するが、主人公がいないものもどうかと思う。
全般的におかしな映画なのだが、あえて見どころを挙げれば、陽月が大きなキャンパスに向かってがむしゃらに絵を描いていく姿だろうか。長い手足が活かされていて個人的にはちょっといいシーンである。
ファンタジーの部分は謎だらけだった。ここまでやるなら、主人公と謎の青年がデュエットダンスさながらに踊りまくる場面を見せてほしかった。これなら往年のヅカファンも満足したかもしれない。
とにかく一度見ただけでは理解不能な作品である。何度か見ると隠れた演出意図がわかるのかもしれないが……。ネット配信されたら再度チェックしてみたい。
余談だが、ひさしぶりに有楽町スバル座に行った。座席配置など昭和の趣を感じさせる貴重な映画館でなんとなく落ち着く空間だ。