新文芸坐で映画『永い言い訳』(2016年、監督・原作・脚本:西川美和)を鑑賞。主演は本木雅弘。
人気作家・衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻(深津絵里)が旅先で親友とともにバス転落事故により事故死したという知らせを受ける。その時、不倫相手(黒木華)と浮気していた彼にとってそれほど悲しい出来事ではなかかったが、世間に対しては悲劇の主人公を装うしかなかった。
そんなある日、妻の親友の遺族、夫・陽一(竹原ピストル)とその子どもたちと出会う。幸夫は長距離トラック運転手で家を空けがちな陽一に代わり、子どもたちの世話を始める。子どものいなかった幸夫にとって虚しい日々がようやく満たされていくように思われたが……。
- 発売日: 2017/04/21
- メディア: Blu-ray
ストーリーはわかりやすい。子どものいない冷めた夫婦で、妻が亡くなったらどう思うだろうということは男なら一度は考えてみることかもしれない。悲しむどころか清々しいと感じるかもしれないが、社会的にはその感情は表には出せない。ちょうど本作の幸夫のようになるだろうなと想像する。
タイトルの「言い訳」というのは「妻を愛せなかったことに対する言い訳」なのだろうか。それを探す物語が本作だとすればあまりに悲しい。また「長い」ではなく「永い」というのも重い。幸夫のこれからの人生を永遠に言い訳を探すことから逃れられないのか。これとは対照的に陽一の場合は単純に描かれている。
幸夫と陽一の対比が際立っているのが印象的。子どもの有無、妻に対する愛情の有無、インテリとトラック運転手。ヒネリがなく、あまりに分かりやすすぎるだろうとも思うがまあいいだろう。どちらに共感を感じるかと言えば幸夫だろうか。陽一とは仲良くなれそうにない。ちょっと無理かも……。
出演者のなかでは、竹原ピストルが自然体の演技でとてもよかった。また妹役の堀内敬子も素晴らしいが、子どもがそんなこという言うのかなという演出はややあざとい。
幸夫はちゃっかり自分の体験を本にまとめて賞を受賞している。ラストに陽一の長男が丸坊主の学ラン姿で受賞を祝うパーティーに参加していたが、中学受験はどうなっただろう。最後まで気になって仕方なかった。
この映画を見たのが東日本大震災の特集番組がテレビに溢れていた時期だったこともり、家族を突然失うという点ではいわゆる「震災映画」と言えるかもしれない。振り返って見れと最近、震災を想起する日本映画がやたら多いような気がする。ようやく映画作家たちの気持ちの整理がついてきたのだろうか。
いまいち監督の意図が読めなかった作品だが、『永い言い訳』の制作秘話を集めたエッセイ集を見つけた。これを読むと映画に対する理解が深まるのだろうか。