早稲田松竹のレイトショーで映画『ROMA/ローマ』(2018年)を鑑賞。 アルフォンソ・キュアロン監督の半自伝的映画。Netflixが配給したことでも話題になった。ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作品。白黒映画。
1970年のメキシコシティのローマ地区が舞台。医師のアントニオ一家は、夫婦と4人の子どもと祖父の7人家族。その中流家族で働く若い家政婦クレオ( ヤリッツァ・アパラシオ)は住み込みで家事を切り盛りしていた。ある日、夫アントニオはカナダに長期出張に出かけるが、なかなか帰らない。妻ソフィア(マリーナ・デ・ダビラ)は不安を募らせるが……。
ROMA | Official Trailer [HD] | Netflix
ストーリーは凡庸。ひどい男たちに翻弄されるふたりの女性のストーリーが並行して進行する。ひとつは家政婦クレオの妊娠から死産に至る話。相手の男はクレオが妊娠したことを告げられてもまったく関心を示さず、クラオは無残に捨てられる。もうひとつは妻ソフィアが夫に逃げられて離婚する話である。男に捨てられたふたりの女性が階級を超えて本当の家族になる姿が描かれる。
この映画のいちばんの見どころは映像美だ。まるで古いイタリア映画のような雰囲気を感じさせる。技巧を凝らして画面のすべてを統御しようとするかののような、計算され尽くした映像には唸らされる。デジタル撮影したせいか、白黒映画だが古いフィルム映画とは画質が趣が異なり、モダンでデジタ時代の白黒映画である。加えて音響効果もすごい。病院の分娩室の場面などは音に囲まれて、まるで現場にいるような錯覚に陥る。
この映画はNetflixで公開されたため、映画なのかドラマなのかという論争があったようだ。どちらでもいいが、Netflixで一度見たからいいやという人も、ぜひ上映環境のの整った映画館で観ることをおすすめしたい。この映画に限らないが白黒映像は暗闇のなかで落ち着いて見たいし、音響にもこだわりたい。没入してみたい映画である。
映画のなかの70年代初頭のメキシコは政治的にひどく混乱していたり、先住民が白人家庭の家政婦になっていて階級社会があったりした様子だったが、社会背景などはいまひとつピンとこない。昔、ラテンアメリカの歴史を学んだとき、クリオーリョ、メスティーソ、ムラート、インディオという人種的な身分制度を覚えさせられた記憶があるが、メキシコにもこうした階級社会が当時も残っていたのだろうか。
映画のポスターにもなっている印象深いワンショットがある。クレオが海で溺れかけた子どもたちを救ったあとに家族で抱き合っているシーンで、宗教画を思わせる風格すら感じさせる。この場面でだけでなく名シーンがある。いささか狙いすぎではないかと思わないこともないが美しい映画である。