退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『暖流』(1939) / 戦前の良質な松竹メロドラマ

映画『暖流』(1939年、監督: 吉村公三郎 )をDVDで鑑賞する。原作は岸田國士の同名小説。舞台は戦前の東京。経営難の名門個人病院を再建するなか、院内で繰り広げられる権力争いを背景に登場人物たちの恋模様を描くメロドラマ。

少し前に神保町シアター増村保造版(1957年)を見たので、戦前に製作された吉村公三郎版も比較のために見てみた。

日疋(ひびき)(佐分利信)は恩人が経営していた病院の再建に乗り出す。院内の情報を集めるために便利に使っていた看護婦のぎん(水戸光子)は、次第に日疋に惹かれていく。一方、病院のオーナーの令嬢・敬子(高峰三枝子)は日疋の経営改革に批判的だったが……。この三人の三角関係を描く昭和のメロドラマ。

吉村版と増村版の主要キャストは以下のとおり。

吉村版(1939年) 増村版(1957年)
日疋祐三 佐分利信 根上淳
石渡ぎん 水戸光子 左幸子
志摩啓子 高峰三枝子 野添ひとみ

まず戦後「オジサマ俳優」として活躍する佐分利信が若いのに驚かされる。そして、このふたつの『暖流』のちがいは看護婦・ぎんに集約される。増村版のぎんが大映テレビに出てきそうな不思議ちゃんなのに対し、吉村版はいたって普通である。やはり正統派のメロドラマはこうでなければいけない。また高峰三枝子が美しいことも特筆しておく。

また増村版は時代が戦後に翻案されていたが、この物語は戦前を舞台にするのが合っている。戦前の上流階級の生活が垣間見られるのも貴重。当時の日本に明確な階級社会だったこともわかる。

この映画は戦前の東京の風景も見ることができる。さすがに現在の風景と結びつけることはほとんどできなかったが、駿河台にあるニコライ堂だけははっきりと確認できる。ほぼ現在のままだ。だだし周囲に高い建物はなく落ち着いた佇まいである。戦後の東京の都市計画は完全に失敗したなと思わせるシーンでもある。

また古い日本映画なので仕方ないのだろうがが、音声にずっとノイズが乗っていて観ていてちょっとツライ。ハイテクで除去あるいは軽減でいないものだろうか。復元作業に公的な文化予算を投じてもいいだろう。