退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

朝ドラ『マッサン』が終了しました

28日、NHK連続テレビ小説『マッサン』が最終回を迎えた。これまでの朝ドラでは女性の半生を描くことが多かったが、今回は主人公が男性という異色作。 

ストーリーは次のとおり。大正時代、ウィスキー造りに魅入られた広島の造り酒屋の息子・亀山政春(玉山鉄二)が、醸造技術を学ぶためにスコットランドに留学する。そこでスコットランド人の女性・エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)と駆け落ち同然で国際結婚し、二人で日本に帰国するところから物語が始まる。二人は文化のちがいに触れながら成長して、戦争の時代の荒波を乗り越えて、日本でウィスキー会社を成功させる姿を描く。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝とその妻リタの夫婦をモデルにしている。

ドラマの舞台は、大阪・広島から北海道の余市に移るが、いちばん好きだった時期は、大阪時代。マッサンがウィスキーの情熱を持て余しながら思い通りにならずに苦悩しているしているところを、エリーがさりげなくサポートするあたりだ。マッサンと鴨居社長(堤真一)との関わりは感動的だし、エリーと大阪の町の人たちの交流も楽しい。

一方、余市に移ってからは、戦時色が濃くなるにつれてドラマが暗くなり見ているのつらい。当時の閉塞感塞は強かったのだろうが、エリーが敵国の出身者であることが見せ場のひとつであることを差し引いても、戦争に重点を置きすぎたのではないか。反戦を通り越して鬱ドラマになってしまった。

またドラマで一番不満だったのは、ウィスキー造りがないがしろにされていたこと。マッサンがあれほど本物にこだわり、スモーキーフレーバーが日本人に受け入れられないことに悩むが、いつのまにか事業が成功している。戦中は海軍の指定工場になったり、戦後は進駐軍との取引きがあったりという幸運があったにしても、日本人の嗜好に合うウィスキーはいかにして生み出されたかが十分に描かれてないのは不満。「プロジェクトX」にしろとは言わないが、もう少しウィスキー造りそのものにに焦点をあててほしかった。

次に役者に目を向けてみたい。まずは、エリーを演じたシャーロット・ケイト・フォックス。日本語ができないのに、いきなり朝ドラのヒロインに抜擢され演じきるのはすごい。たいしたものだ。アメリカの俳優の層の厚さなのだろうか。逆に日本の俳優が海外に渡って同じことができる人が何人いるだろう。

まあ細かいこと言えば、スコットランド訛りをもっと強調してほしいと思わなくもないが些細なことだろう。また後半ではもっと日本語が上達しているのではないかという場面もあり、いつまでも日本語が片言なのが気になったが、こればかりは仕方ないのだろう。

もうひとり役者を挙げるなら、ニシン漁の網元だった森野熊虎(風間杜夫)の娘・ハナを演じた小池栄子。いまや何本も映画に出演して知る人ぞ知る演技派女優であるが、あらためて上手いなあと感じた。グラドル時代の活躍を知る者としては感無量。

最後に最終回について触れてみたい。エリーが自らの死後に読むようにマッサンに託した「ラブレター」を通して物語を振り返る構成だった。手紙は英語で書かれていたが、エリーのナレーションは日本語だったが、この場面は流暢な英語で手紙を朗読して日本語字幕がよかっただろう。だれしも人生の最期はやはり母語で語るのではないか。

ドラマから外れるが、エリーのモデルであるリタの言語上のアイデンティティはどうだったのだろうと想像してみるのも興味深い。

マッサン メモリアルブック (NHKウイークリーステラ臨時増刊4/30号)

【関連記事】