退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】吉村栄一『坂本龍一 音楽の歴史 : A HISTORY IN MUSIC』(小学館、2023年)

今年3月に他界した音楽家坂本龍一の評伝。

本書がカバーしているのは2022年まで最晩年には触れられていない。少し前に文庫で『音楽は自由にする』という雑誌インタビューをまとめた自伝を読んだが、こちらは2009年までだった。もう少し先のことを知りたくて読んでみた。

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自分語りの『音楽は自由にする』のほうが、坂本の心情がよく出ていたように思えたが、本書はより客観的な視座からまとめられており資料的価値は高いだろう。大部なこともあり細かいことにも記載があり、前書では見事にスルーされていた、アニメ映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』についてもほんの数行だけだが言及があった。

読み終わるまで時間がかかったが、その当時に坂本が関わった音楽をサブスクで聞きながら少しずつ読み進めるのは悪くない体験だった。こういう楽しみ方ができるとは、いい時代になったものだ。

読み終わって面白かったのは、坂本が世に出る前の「何者でもないない」ころの部分である。仕事を始めたあとの業績はよく知られているせいもあるが、やはり青春期のエピソードは面白い。人生の輝きは青春期にあるのだおる。

またテクノポップで有名になった坂本だが、結局は原点でもあるクラシック音楽を根幹にした音楽に立ち戻り、自身でもピアノ演奏を行い多くの録音を残しているのも印象的だった。

前述したように資料的価値は高いが、引用文献のまとめ方がわかりにくかったり、何より索引がないのが致命的である。かつて野口悠紀雄も指摘していたが索引のない本は論外だろう。とくに本書のような評伝ではなおさらである。

さらに個人的嗜好で言えば、ハードカバーの立派な装丁のわりにはスピン(しおり)がないのも残念だった。高い本なのになぁ。