退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】坂本龍一『音楽は自由にする』(新潮文庫、2023年)

坂本龍一が自らの人生を振り返るという企画。月刊自動車誌『エンジン』の連載記事をまとめたもの。この本は、2009年に単行本として刊行され、筆者の死去を契機に文庫化されたもの。なので、晩年についての言及はない。本文には細かく注釈がついており、さらに文庫化に伴いアップデートされているのは美点。

YMO以降の坂本の活躍は広く知れ渡っていることもあり、個人的に面白く読んだのは幼年期から藝大を出るぐらいの時期の部分である。その当時の写真も貴重。

本のなかで、「実家はそれほど裕福ではなかったが音楽教育のために費用を出してくれた」とうことが書いてあったが、まあ母方の実家が半端なく太いので実際はどうなんだろうと思ったが……。まあ音楽には金がかかるというのは間違いないようだ。

ほとんど勉強せずに都立新宿高校に合格したり、現役で藝大に入学してしまうあたりはさすがというところか。まあ本人は努力を人に見せるタイプではなかったかもしれないが非凡ではある。

高校時代にカントを読みふけったりする早熟ぶりは驚くばかりだし、東大安田講堂事件の際には中に入ったというからすごい。などなど若い頃の貴重なエピソードが満載で読み応えがあった。

ちょうど本書を読み終えたあとに、雑誌『文藝春秋』(2023年6月号)で新宿高校時代の友人だった塩崎恭久と馬場憲治による「革命同志・坂本龍一を偲ぶ」という追悼記事を読んで、友人の視点から見た高校時代の坂本が垣間見えて興味深かった。

ピアノの先生や高校時代の友人たちとの出会いなど、やはり人生は人との出会いが大きいなあ、とあらためて思った。オススメです。