退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『反逆児』(1961) / 東映時代劇らしからぬ格調高い悲劇映画の傑作

少し前に「東映時代劇YouTube」で配信されていた映画『反逆児』(1961年、脚本・監督:伊藤大輔)を鑑賞。徳川家康の嫡男として生まれながら若くして悲劇的な死を遂げた松平信康の生涯を描く。主演は中村錦之助

本作は大佛次郎の戯曲「築山殿始末」が原作であり、これを伊藤大輔が格調高く演出している。大衆的な東映時代劇とは一線を画し、大げさに言えばギリシャ悲劇のような趣すらある。

信康と言えば、徳川家康を父に持ち、かつて信長に討たれた今川家の血を継ぐ築山御前を母に持ち、さらに信長の娘を正室に持つという、数奇な運命に生まれており、戦国時代ならではの理不尽を背負っている。これだけで小説かよと思うほどだ。

いわゆる信康自刃事件を題材にとっており、昔から様々な解釈がなされ翻案されてきている題材である。本作では、信康の浮気で不和となった妻・徳姫が父・信長に対して12箇条の手紙を書いたことで信長に口実を与え、信康が自刃に追い込まれるという三河物語に基づいた設定になっている。さらに信長が信康の有能さを見抜き、成長する前にその芽を摘むという体で描かれる。

元は戯曲であるが、広い空間がよく描かれているし映画としてもよくできている。ラストで家臣たちが涙ながらに切腹する信康を介錯するシーンは圧巻である。およそ東映時代劇らしくない格調のある作品であり、強くオススメしたい。

最近は今年の大河ドラマ「どうする家康」に関連して、家康関連の情報が多いが、この配信もその一環だろう。ちなみに本作で築山殿を演じているのは名優・杉村春子であるが、大河では有村架純である。大河ドラマでどのように信康自刃事件が描かれるのか興味津々である。