退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『動乱』(1980) / 二・二六事件を舞台にした高倉健と吉永小百合の初共演作

YouTube東映シアターオンライン」で映画『動乱』(1980年、監督:森谷司郎)を鑑賞。二・二六事件を背景に青年将校とその妻の生きざまを描いた大作。第1部「海峡を渡る愛」、第2部「雪降り止まず」の二部構成。高倉健吉永小百合の初共演が注目を集めた。本作は東映映画だが、日活出身の吉永に加え、東宝出身の森谷の組み合わせが五社協定が終焉した時代を感じさせる。

宮城大尉(高倉健)の部隊から二等兵(永島敏行)が脱走し、その姉・薫(吉永小百合)が売られようとしていることを知る。宮城は弟を失った薫にかなりの金を渡す。しかし転任先の朝鮮で慰安婦となった薫と再会し、内縁の妻とする。一方、兵士や民衆が苦しみ、政治家や軍上層部が利益を独占する社会に成り果てていた。憤慨した宮城たち青年将校は「昭和維新」を決行すべき機会を伺うが……。


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高倉健吉永小百合の共演は見どころと言えるが、映画としては出来がよくない。二・二六事件という史実を背景に、ふたりのメロドラマを成立させるのはたしかに難しだろうが、二・二六事件を中心とする時代背景が描けていないのは致命的。「皇道派と統制派」などという言葉が踊るが、当時の日本の根本問題についてまったく言及されない。舞台があやふやだから人間ドラマも冴えない。

また宮城が決起にいたるまでが、まるで東映任侠映画のフォーマットのままに見えるのも難点か。高倉健のイメージのせいもあるだろうが、決起後、道中で憲兵曹長米倉斉加年)を軍刀で切り捨てるあたりは往年の任侠映画そのものだ。

さらに気に入らないのは、二・二六事件を美化していることである。二・二六事件はしょせんは軍部の派閥抗争であり、その結果、統制派が軍部を掌握したことにより太平洋戦争に傾いていくのは周知のとおり。その反省がまったく本作には見られず、ただメロドラマで上書きしようとする姿勢に疑問を感じる。