退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ジャコ萬と鉄』(1964) / 高倉健x深作欣二による東映映画の傑作

YouTubeの「TOEI Xstream theater」チャンネルで配信されていた、映画『ジャコ萬と鉄』(1964年、監督:深作欣二)を鑑賞。谷口千吉監督による1949年の東宝版のリメイク作品。主演は高倉健。白黒映画。

昭和21年、北海道カムイ岬。ニシン漁に備えて全国から「ヤン衆」と呼ばれる出稼ぎが集まる。網元の九兵衛(山形勲)が仕切る漁場にもたくさんの男たちが集まるが、そのなかにマタギ姿の隻眼の男・ジャコ萬(丹波哲郎)がいて、九兵衛は驚く。かつて二人は樺太で漁をしていたが、引き揚げの際、ジャコ萬は九兵衛に船を盗まれ置き去りにされた経緯があった。死線をさまよい、恨みを募らせたジャコ萬は漁を手伝わずに暴力的に振る舞う。そんななか、戦死したと思われていた九兵衛の息子・鉄(高倉健)が帰ってくるが……。


www.youtube.com

谷口版に感動した高倉健が「やらせてほしい」と企画した珍しい作品。任侠映画にはない高倉健の新たな一面が見れるし、若き日の深作欣二監督の才気も感じられる貴重な作品。やくざ映画ではなく、北海道の漁場に生きる男たちを描く。骨太の脚本が冴えている。

どこまでも明るい陽の高倉と、深い恨みを胸に秘める陰の丹波との対比がいい。アクションシーンも見ごたえがある。また高倉と山形の父子の間の情も見事に描かれていていて、ヒューマンドラマとしてもよくできている。

途中、出稼ぎが網元のやり口に反発してストライキを打つ場面がある。このあたりは左翼思想を取り入れて、階級闘争あるいは社会問題として深堀りすることもできただろうだ、そうした要素はあっさり捨てて、あくまでも娯楽映画を志向しているのも奏功している。

高倉健深作欣二のふたりは、やがて東映を背負って立つ存在となるが、二人が組んで大作に挑むことはついになかった。相性が悪かったのだろうか。この映画の出来栄えを見るとなんとも惜しい。

また高倉が宴会の席で見せる「南洋の土人の踊り」の芸が秀逸であることも付言したい。このシーンだけでも見る価値あり。よくやるなぁ。