退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『明治侠客伝 三代目襲名』(1965) / 加藤泰監督による任侠映画の傑作

新文芸坐の《映画監督・加藤泰 情念の横溢》で映画『明治侠客伝 三代目襲名』(1965年)を鑑賞。東映の時代劇路線が行き詰まり、任侠映画路線に転換したころの作品。主演は鶴田浩二

明治侠客伝 三代目襲名 [DVD]

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明治末期の大阪。けんか祭りの見物中に木屋辰一家二代目(嵐寛寿郎)が刺客の刺される。浄水場工事の利権を狙う星野(大木実)の仕業なのは明らかだったが確たる証拠はない。一触即発に思えたが浅次郎(鶴田浩二)は組の暴発を抑える。これを不満に思うぼんぼん(津川雅彦)は家を飛び出て遊興に明け暮れるようになる。そうしたなか浅次郎は、星野配下の唐沢(安部徹)に強引に言い寄られて困っていた娼婦・初英(藤純子)を助け、親の死に目に間に合うように実家に帰してやる。二人に恋が芽生えるが決して叶わぬ恋であった。やがて二代目が死に浅次郎が三代目を継ぐことになるが……。

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典型的な任侠映画の様式を踏襲しているだけでなく、理路整然としていて計算尽くされて撮られている。冒頭の俯瞰カメラで儀式の様子を撮ったシーンの映像美など、各所に凝った構図の映像があり監督の持ち味が感じられる。汽車から敵役の事務所に飛び込む殴り込みのシーンも迫力満点。

川辺で藤純子鶴田浩二に桃を2つ渡すシーンが印象的だった。フライヤーによれば、以後の作品でも旬の果実を女心を託す小道具として使われたとあった。藤純子が初々しいのもこの映画の美点だろう。

東映任侠映画は、本作の鶴田浩二主演のほか高倉健藤純子が主演して、同工異曲の作品が多数つくられた。テレビが普及する前で娯楽が少なかった時代とは言え、よくも飽きずに同じような作品を見に映画館に通ったものだ。いまの感覚では想像もできない不思議な現象に思われる。

とは言え、この作品は任侠映画の傑作と謳われていて映画ファンにとっての楽しみがたくさんある。また任侠映画のエッセンス詰まっているので、まずはこの一本からという任侠映画入門に適している。「任侠映画なんて」と一段低くみている人も、見どころ満載の一本なので一度見ておくとよいだろう。

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