退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】西村康稔『コロナとの死闘』(幻冬舎、2022年)

2020年3月から2021年10月まで新型コロナウイルス感染症対策担当大臣を務めた西村康稔氏の戦いの軌跡を追った一冊。

一時期、コロナ担当大臣としてマスコミへの露出が多く、国民に顔だけは売ったのはまちがいない。しかしネット上には「無能」の文字が踊り、テレビに登場するたびにボロカスに言われていて気の毒に思っていた。

コロナ対策については、未曾有のパンデミックに対処するのだから思い通りにならないことも多かったのだろうが、そうしたジレンマというか葛藤が描かれていないのは不満。どことなく感じられる「上から目線」にもゲンナリする。

コロナ対策の中枢にいたのだから、特上のネタはたくさんあるはずだ。

  • 新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の大失敗(あのアプリは何だったんだろう)
  • 法的根拠もないにもかかわらず金融機関を使って外食産業に圧力を掛けて思い通りに操ろうして大炎上した一件(独裁者志向の黒い顔を露呈)
  • 都知事など自治体首長との確執(小池都知事のほうが何枚も上手だった)

思いつくままに挙げてもこれだけある。

これらをひとつずつ深堀りして、当時の内部情報を交えて筆者の見解を紹介するだけでも相当面白い本になったはずだ。せっかくのいいネタがあるのに、官僚の作文のような味気ない文章で読み物としてはまったく面白くない。著名なライターが忖度なしで書いてほしかった。

つらつらと記録文書のような書きっぷりは資料としては価値があるのかもしれないが、読者はそうしたものを求めているわけではない。

最後まで読み勧めていくと、なぜか巻末近くに東大ボクシング部のときの写真が載っていた。ずいぶんと場違いだなと思ったが、結局は選挙民に配る「名刺代わりの本」がほしかったのだろう。『コロナとの死闘』というタイトルも大仰で恥ずかしい。

一時期Amazonのレビューがボロボロになっていた。それほど内容はひどくはないが、あえて時間を割いて読む価値はない。政治屋の「名刺代わりの本」の域をでない。