退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『地獄』(1999) / 実在の凶悪犯罪事件をモデルにした石井輝男監督によるホラー映画

新文芸坐の《丹波哲郎 生誕100年祭》という企画上映で、映画『地獄』(1999年、脚本・監督:石井輝男)を鑑賞。主演は佐藤美樹

鬼才・石井輝男が連続幼女誘拐殺害事件、オウム事件、毒入りカレー事件など、実在の凶悪犯罪を再現して、事件を引き起こした犯罪者たちが地獄で責めを受ける様子を描く問題作。

となる宗教団体から抜け出して、人生に思い悩む18歳の少女リカ(佐藤美樹)は、公園で出会った老婆(前田通子)によって地獄へ連れていかれ、地獄の恐ろしさを人間たちに伝える役目を言い渡される。地獄でリカが見たものは、現世で大罪を犯した亡者たちが地獄の責めを受ける阿鼻叫喚の修羅場だった……。

石井輝男監督『地獄』(1999) 予告編 - YouTube

日本映画で『地獄』を言えば、中川信夫監督の名作とされる『地獄』(1960年)、神代辰巳監督の原田美枝子が脱ぎまくっている『地獄』(1979年)がよく知られている。この2作がフィクションであったのに対し、本作では実名ではないが実在の事件を題材にしている点が大きく異る。とくにオウム事件に大きな尺が取られていて、主人公もそこから逃れてきた元信者という設定。

登場人物も実在の人物そっくりにつくられていて、事件の記憶が生々しい世代には響くだろうが、時事ネタだけに記憶が風化してしまうとワケのわからない映画になるおそれおある。実際若い世代には元ネタはわからないだろう。パロディは普遍的な映画にはなりえない。

映画館のロビーでおじさんが「よくつくったなぁ」と話していたが、まさにそうした強烈かつ異常な映画である。ただしあくまでも石井プロダクションによる低予算映画であり、かつて東映などで腕を振るった鬼才・石井輝男監督にしては寂しい作品とも言える。

映画としての見どころは、閻魔大王(老婆)役の前田通子の怪演、そして美術監督を務めた原口智生の仕事が挙げられる。地獄の描写は低予算のわりに見どころが多い。

全編、女性の裸ばかりが出てくる映画だが、ラストの終わらせ方も「裸」全開でびっくり。さすがにこのエンディングは呆気に取られたが、石井監督らしいカルト映画に仕上がっている。

さて肝心の丹波哲郎はどこに出てきたかというと、終盤に明日死能役で登場。これはかつて石井輝男監督が撮った映画『ポルノ時代劇 忘八武士道』(1973年)に丹波が主演した同じ役である。三途の川にふらりと現れて地獄の鬼どもを斬りまくり、そのまま現世に戻っていく。この映画に丹波哲郎が必要だったのかわらないが、監督との友誼があったのだろうと想像してしまう。

ちなみに当日は、本作と『ポルノ時代劇 忘八武士道』との二本立てだった。もちろん目当ては後者だったが、この『地獄』もひどく懐かしかった。丹波哲郎特集でこの作品がかかるのはどうかと思うが、二本立てならではのプログラムとして「アリ」ということにしておこう。