退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

コミック『美味しんぼ』を読了(事実上の打ち切り)

一昨年から少しずつ読み進めていたコミック『美味しんぼ』(全111巻)を読み終えた。

美味しんぼ』は、雁屋哲(原作)、花咲アキラ(作画)による漫画、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて1983年から連載されていたが、2014年から後述の事情により休載している。一応休載扱いとなっているが事実上の連載打ち切りなので、全111巻とした。

30年間におよぶ長期連載のなか、登場人物も歳を重ねるにつれてストリーも変遷を遂げている。ざっと流れを書いてみる。

  • 究極のメニューVS至高のメニュー……山岡と雄山の料理対決
  • 山岡とゆう子との結婚(第47巻)
  • 日本全県味巡り……飛沢の登場と世代交代
  • 山岡と雄山との和解(第102巻)……父子の真の和解へ

個人的には初期の「究極のメニューVS至高のメニュー」のあたりがいちばん面白かった。とくに対決の合間に挿入されていた人情噺とも言える、小さなエピソードが好きだった。後半になると政治的メッセージが強くなってくる。私はグルメ漫画を読みたいのであって、青年漫画誌を通して社会問題を考えたいのではない。

そして打ち切りのきっかけとなったのは、「東日本大震災福島第一原発事故に関する記述」である。最後の2巻には「福島の真実」というタイトルがついている。そのなかで登場人物が福島第一原子力発電所に取材に行った後、疲労感を覚えたり原因不明の鼻血を出したりするなど体調不良を訴えるシーンが話題となった。とくに主人公・山岡が派手に鼻血を出す場面(第111巻、p.240)は衝撃だった。

連載から単行本にする段階でセリフなどが改変されていることもあるが、今回改めて読んでも炎上するほどだろうかと思った。それでも当時の関係者の思いはちがったのか、風評被害を招くということで大炎上し、担当閣僚がコメントを出すほどの騒ぎとなった。

なお原作者の雁屋哲はこの騒動について本を出版している。

この「福島編」の終了後、いつものようにしばらく休載することは事前に決まっていたが、いまなお連載は再開されていない。事実上の打ち切りとなった。

この『美味しんぼ』はテレビアニメ化されて人気を博したが、問題を起こしてお蔵入りになったエピソードがいくつもある。原作をアニメ化した後で問題化するのはテレビアニメとしてはめずらしい。もともと原作には社会問題に言及することが多く、潜在的に炎上体質があったのだろう。

第111巻には雄山と山岡の母親との福島での馴れ初めのエピソードが登場する。なかなかいい話なのだが、原発事故の圧倒的な情報量の前に埋もれていて惜しい。もう少しストーリーを整理して、山岡と雄山の和解でキレイに終わっていれば名作となっただろう。人気連載漫画をきちんと終わらせるのは難しい。