退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『出口のない海』(2006) / 人間魚雷「回天」で出撃した若者の姿を描くヒューマンドラマ

DVDで映画『出口のない海』(2006年、監督:佐々部清)を鑑賞。原作は横山秀夫の同名小説。主演は市川海老蔵

明治大学野球部で投手を務める並木(市川海老蔵)は肩を壊して「魔球」を習得しようと奮闘だった。戦局が厳しくなると並木は海軍に志願する。海軍学校に入った並木らに特攻兵器回天への志願者募集が告げられる。葛藤の末、並木は回天に志願して、搭乗員としての訓練が始まるが……。


沒有出口的海 (預告片)

旧日本軍の特攻兵器に題材を採り、若者たちの青春と組み合わせてつくられた映像作品はいくつもあるが、回天を取り上げたものは数少ない。『人間魚雷回天』(1955年、監督:松林宗恵)がすぐに思い浮かぶが、戦争を肌身で知っている時代の映画あり、現代にそれを求めるは無理だろう。

本作は戦闘シーンがほとんどなく主人公たちの人間ドラマを中心に淡々と進行していく。それはいいのだが、この映画では戦争の不条理が十分に描かれていないのが不満。主人公が唐突に海軍に志願したり、申し訳程度に出てくる恋人(上野樹里)の関与もよくわからない。

戦闘シーンがないぶん、本来ならば主人公たちが戦争をどう考えていたのか、なぜ特攻に志願するに至ったのか、その心情を丁寧に描くべきだろう。

あまり見どころのない映画だが、回天搭乗員の訓練課程が細かく描かれていたのは興味深かった。相当複雑な手順を計算を求められるのには驚いた。バカには無理だったのだろうが、そのため将来を嘱望されるような有能な人材が無為に死んでいったことがわかる。気になるのは人間魚雷「回天」の兵器としての評価である。果たして戦果は上がったのだろうか。この点も映画に取り入れてほしかった。

主演の海老蔵については、少し前に『利休にたずねよ』の演技を見て感心したので、本作でも期待したがどうも彼のよさを発揮できないように思えた。共演者たちの演技も感心できない。人間ドラマを中心にしているのに、芝居がダメなので凡庸な作品になっている。こうなるなら特撮を全面的に取り入れて、戦闘場面に特化したほうがよかった。

出口のない海 [レンタル落ち]