パニック映画の巨匠として知られるエメリッヒ監督がミッドウェイ海戦を撮るとなれば見なければならない。事前に『トラ・トラ・トラ!』を見て気分を盛り上げてシネコンに向かう。映画館は全席に客を入れてよいという通達が出ていたが、隣に客が来ないように半分のキャパで運営していた。映画館には気の毒だが広々として気分がよい。
映画は日米開戦前の東京から始まる。山本五十六(豊川悦司)が「日本を追い詰めるな」と米将校に警告する。その後、日本海軍による真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までが描かれる。史実はいろいろ端折られてて大局的に戦争が描かれているわけでない。イベント沿って熱い軍人たちの人間ドラマで盛り上げていくタイプの映画である。
Midway Trailer #1 (2019) | Movieclips Trailers
ミッドウェイ海戦といえば、既にハリウッドで『ミッドウェイ』(1976年)で映画化されている。ブロックバスター的で面白みに欠ける映画だったが、ハリウッド・メジャーの底力を感じることができる堂々とした作品だった。
その旧作に比べると、本作はメジャー資本による映画ではなく予算は潤沢というわけではなかっただろうが、戦闘シーンでの映像技術の進歩は目をみはる。とくに繰り返し登場する空母を襲う急降下爆撃のシーンは見ごたえがあった。これだけでも映画館で見てよかったと思える。
総じて戦闘イベントを表面的になぞっているだけという印象は否めないが、アメリカ側の記録映画の撮影シーンはちょっと面白い。敵の戦闘機を見て「ビューティフル」と叫ぶ監督がいい。モデルはジョン・フォードかと思われるが、監督のこだわりのシーンであろう。
主に米軍兵士を中止に描かれているのは仕方ないのだが、日本の描写についてどうかなと思うこともある。ひとつはドーリットル空襲を受けた東京で、昭和天皇があわてて防空壕に避難する場面。日本人が撮ればもっと堂々と避難するだろう。
もうひとつは日本海軍が、捕虜にした米軍パイロットを尋問する場面である。士官が口を割らないとみると、彼の部下を脅すために錨を付けて士官を海に放り込むシーンで踊ろた。完全に戦争犯罪である。史実かどうかわからないが、情報戦に負けたうえにこれじゃ勝てないと思ったものだ。
ラストでちょっとオシャレだと思ったのは、劇中でハワイの将校クラブで歌われていた「All or Nothing at All」が、エンドクレジットでフルで流れたこと。後味のいいエンディングで上手い。