退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『梟の城』(1999) / 篠田正浩監督による忍者映画だけど…

映画『梟の城』(1999年、監督:篠田正浩)を鑑賞。司馬遼太郎の同名時代小説を、原作者と親交のあった篠田監督が映画化した時代劇映画。主演は中井貴一

信長に故郷と仲間を奪われた伊賀忍者・葛籠重蔵(つづらじゅうぞう・演:中井貴一)は、豊臣秀吉マコ岩松)の天下にあり山奥で隠遁生活を営んでいた。ある日、かつての師匠から秀吉暗殺の密命を受ける。

忍者として挟持を賭けて使命を果たすことを決意した重蔵。京に上った重蔵を待っていたのは、伊賀忍者ながら今は豊臣方の家臣となり、武士としての出世を望むかつての仲間・風間五平(上川隆也)や甲賀忍者・摩利支天洞玄(永澤俊矢)ら強敵だった…。

こうした忍者同士の戦いを軸に、主人公・重蔵と、小萩(鶴田真由)と木さる(葉月里緒菜)の二人のくノ一とのラブストーリーを重ねながら物語が展開する。

原作が長編小説のせいもあるだろうが、映画に何でもかんでも盛り込みすぎで焦点がボケている。家康や鍛冶屋がストーリーに絡んでくるかと思えばそうでもないし、朝鮮出兵もナレーションだけ十分だろう。冗長とまでは言わないが無駄に長い。
CGによって再現された豪華な襖絵などの桃山美術は、いまの映像技術からすればCGがしょぼいのも気になる。初期のCGが稚拙なのは仕方ないし、そうしたことを気にし始めると古い映画を楽しめないが……。制作時期を勘案して鑑賞するのがよいだろう。それでも美術や撮影を含めた映像そのものは見ごたえがある。

それでも本作が忍者映画としてイマイチだと思うのは、忍者が狡猾で非情だという点が十分に描けていない点だ。主人公カップルは美男美女でいいのだけど、中井貴一鶴田真由は育ちがよさそうに見えて、日陰者として生きてきた忍者に見えないのが難点。とくに中井は影がなくて爽やかすぎる。それでも秀吉の寝所で対峙する中井貴一マコ岩松の二人の芝居はちょっといいので注目してほしい。

もうひとつ惜しいなと思ったのは、石川五右衛門こと五平の釜茹のシーン。刑場が大掛かりに再現されて「おっ」と思った。五平はどんな大見得を切って処刑されるのかと思って見ていたが、あっけなく処刑される。主人公のライバルの死なのだから、悪口雑言を吐くなどもっと盛り上げてほしかった。

さらにクライマックスのライバル同士の忍者バトルが地味なのも残念。まあ忍者の戦いというのは本来地味なのだろうが、映画なのだから千葉真一とまでいななくてももう少し娯楽性を追求してもよかったのではないか。私が期待していた忍者映画とはちがっていた。

この司馬遼太郎の「梟の城」は、東映が1963年に工藤栄一監督により『忍者秘帖 梟の城』というタイトルで映画化されている。当時はもちろんCGなどの映像技術はないが、工藤監督のローアングルや引き画を多用する演出により、スタイリッシュな映像に仕上がっていてたいへん面白かった記憶がある。

新旧「梟の城」を見比べてみるのも一興だろう。映像技術は手段にすぎず、映画の面白さに対しては決定的な要素ではないということがよくわかる。これだけの手札を持って映画化に臨んでどうしてこうなるのか。そんなことを思った時代劇映画だった。