退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

楳図かずおの大傑作コミック「漂流教室」を再読してみた

ふと思い立って、楳図かずおの代表作「漂流教室」を読み直してみた。1972年から1974年にかけて「週刊少年サンデー」に連載されていたSF漫画。いまや古典と言ってもよい大傑作。

手に取ったのはスーパー・ビジュアル・コミックス版。全5巻。

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ある日、小6の主人公・高松翔が通う大和小学校がまるごと未来にタイムスリップしてしまう。周囲が砂漠化した荒廃した未来世界で繰り広げられる小学校児童たちのサバイバルを描いた作品。

連載当時の社会問題だった公害をテーマに着想を得たことは想像できるが、その他にも意表をついたイベントが次々に起こり、読者を飽きさせることがない。さらに恐怖漫画の画風により独自の世界観を作り出している。

最終巻の巻末に短い筆者インタビューが載っていた。それによれば、筆者が膨大なメモを準備していたのを見た編集者に「そろそろ描いたら」と促されてようやく描き始めたとあった。たしかに作品には、怪虫、未来人、地震、地下鉄、遊園地、ペスト、盲腸などアイデアがこれでもかと盛り込まれている。一見、天才肌に見える楳図かずおだが、意外に石橋を叩いて渡るタイプだったのと思うと興味深い。

この作品では、先生たちも児童といっしょに未来に送られるのが初期段階で舞台から消え、結局、児童だけで数々の困難の立ち向かうことになる。ご都合主義だが、極限状態になった子どもと大人の関係が描かれていて面白い。未来に飛ばされた大人と言えば、給食の納入業者のおじさん関谷が、事実上唯一の大人として登場する。ふだんは優しそうな人物を装っていたが、タイムスリップ後は残虐な本性を表し、学校を支配しようとする。物語上の重要な役である。実写だったら「美味しい役」になるだろう。

さて結局、ユウちゃんだけが現代に戻ることでき、主人公の手紙を両親に届けることで物語は終わる。他の児童は希望がかすかに見えた未来に取り残されて、そこでの生き残りを模索するという、味のあるラストである。うまい終わり方に思える。

この作品は、いつか最新の映像技術で実写化されないだろうかと思っているが、なかなか実現しない。もっとも原作のテイストのまま映像化したら、R-18+指定となることは間違いなく、さすがに興行的にきびしいかもしれない。こうした作品が少年誌で連載されていた時代はすごかったなと思うばかりである。