退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】『ひでおと素子の愛の交換日記』(角川文庫、2008年)

吾妻ひでおの訃報に接して、ひさしぶりに読んでみようと手に取った。ひでおというのはもちろん吾妻ひでお、素子というのは作家の新井素子のことである。

この本は角川書店から刊行されていた、映画・サブカル系の雑誌「バラエティ」の連載(1981-1986年)をまとめたもの。当初単行本で出され、その後文庫化されたが、さらにその文庫版を2008年に復刻したものである。ややこしい。ちなみに雑誌「バラエティ」が休刊となったのは1986年のことである。

当時、吾妻は「逃亡」する前で売れっ子の漫画家として活躍しており、新井は立教大学在学中で作家業の駆け出しという時代である。新井のキャンパスライフを扱った回もある。なんとも緩い私大文系の大学生活でうらやましく思ったものだ。

これだけだと時代背景かわかりにくいかもしれないが、本書でも取り上げられていたが高千穂遙原作の劇場版アニメ『クラッシャージョウ』(1983年)が公開された当時の話である。余計わかりにくいか。

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オリジナルの文庫版では吾妻のイラストが白黒だったが、この文庫復刻版ではカラーで掲載されているのは美点。絶好調だったころの吾妻ひでおのタッチを楽しめる。新井素子が美少女化されて描かれているので妄想を膨らましていた人も多かっただろうが、私もそのひとりだった。

まあ内容は他愛のないもので、いまとなってはノスタルジーに浸る以外の目的で読んでもツライかもしれないが、吾妻の画を見るだけでも一読の価値はあるだろう。

個人的には学生時代に新井素子の作品をコバルト文庫をかなり読んでいた時代もあり、本書は懐かしい読んだ。いまとなって振り返ると、当時なぜ新井のSF作品をたくさん読んでいたのかわからない。誰かの影響だったのかもしれないが思い出せない。

この本には文庫復刻版に寄せた、あとがきやオリジナル漫画が付いている。すでに吾妻が「逃亡」したあとの漫画なので、80年代の作品と比べてみるのも一興だろう。

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