著者は森友事件を当初から追い続けたNHK大阪放送局の元・司法キャップ。取材を重ねて特ダネをつかみ次々に原稿を書くが、安倍政権との関係を薄めるように原稿を書き直されてしまう。真相解明されることもなく事件が一応の終息を見ると、筆者は記者職を離れるように異動の内示を受ける。記者でありつづけるためにNHKを辞職した筆者が、いま赤裸々に綴るノンフィクション。
- 作者: 相澤冬樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/12/13
- メディア: 単行本
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タイトルに「安倍官邸vs.NHK 」とあるが内容は想像とはかなりちがった。書籍のタイトルは編集が決めることが多いらしいが明らかに“釣り”である。安倍政権がNHKが直接圧力をかけたことを示す記述はない。せいぜい「森友事件の取材を舞台に一記者からみたNHKの内実」というところだろう。
ふだん知ることのないNHK報道部門の内部をのぞき見できたり、記者職といての取材ノウハウの一端を知ることもできたり、読み物として面白い。適当にユーモラスな文章も読みやすい。一気に読み終えた。
メインの事件を追う取材の記録は読み応えがあるが、NHKから地方紙に転職するくだりも興味深い。給料はいくらでもいいから取材費は使わせてほしい、他社にも原稿を書くという副業を認めてほしい、というのが入社の条件だという。これを受け入れた新聞社も太っ腹だ。地方紙では社主が「よっしゃ」と言えば通るのあろうか。驚いた。
この本を読んで、NHK報道が本当に政権批判の論陣を張れるのだろうか、という点も考えさせられた。この本には森友事件で安倍政権がNHKに圧力をかけたという証拠は示されていないが、当時巧妙にあの手この手で接触があっただろうことは想像に難くない。
詳しくは書かないがNHKの成り立ちを考えると、政権が本気を出せば批判などできるはずもないことは明らかだ。以前は堂々と政権批判できたのは政権のメディア・コントロールが緩かったからあろう。制度上のNHK報道の限界がいま露呈しているように思える。
それにしても、モリカケ事件をはじめ前代未聞のスキャンダルを連発しても、小揺るぎもしない安倍政権は大したものだ。神がかり的な強さを感じざるを得ない。