東京工業大学を定年になったヒラノ教授の再就職先は中央大学理工学部。教授にとって初めての私立大学である中大で過ごした10年間の奮闘ぶりを綴ったエッセイ。
- 作者: 今野浩
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2017/03/23
- メディア: 単行本
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国立大教授が定年退職後にどのように再就職先を見つけるのか、国立大と私大とえはどのようなちがいがあるのかなど、なかなか知る機会のないことを知ることができる。
ヒラノ教授は幸運にも都心の中大理工(なんと後楽園にあります)に再就職が決まるが、私立ならではの教育負担の大きさに驚くも工夫しながらやっていく。そして肝心の学生の質は東工大とは雲泥の差で研究どころではないだろうと思いきや、これまた幸運にも優秀な学生に恵まれて、これを指導して学問的業績をあげていくあたりも面白い。
そしてヒラノ教授の研究室がごっそり学科の成績優秀者を集めてしまったとうエピソードも愉快。学生たちに人望があったようだ。人徳の為せることだろう。
私の話で恐縮だが、学問的業績があっても人格に問題ありと学生たちに見なされた教授は、学生に相手にされなくて惨めだったことを思い出した。基本的には学生の希望と成績とを合わせてゴニョゴニョして研究室配属が決まったのだが、ある意味、人気投票のようなところもあり残酷だった。
この他では、外様なのにいつのまにか中大マンになり箱根駅伝を応援している姿も微笑ましい。天下りの教授連中は大学スポーツなど興味ないように思っていたので意外だった。
さて中大といえば最近、看板学部の法学部の都心移転を発表して話題となった。メインキャンパスを多摩に移転して以降まったく精彩を欠いて、上手く立ち回った明治大学との差は開くばかり。この点はヒラノ教授も心配していて、この本でも中大の将来について触れているが、さてどうなるのだろうか。
中大理工が多摩に下放されるというシナリオがあるやなしや。そうなったらいよいよ中大理工も終了か。そんなことを考えて読了した。
あとがきでも触れていたが、工学部は大学によって多種多様であるが、工学部共通の性質がある。その工学部のコアのようなものが、この本にはよく書かれているように思う。工学部出身者は面白く読めるだろう。