元・ニッポン放送アナウンサーの上柳昌彦の自伝的エッセイ集。転勤族の家庭で育った少年時代、そしてアナウンサーを目指すようになる大学時代から始まり、就職したラジオ局での奮闘の日々を綴る。
今年秋に終了した『中島みゆきのオールナイトニッポン月イチ』という番組に上柳氏が登場して本書を紹介していた。5年半ほど続いていた番組だったが、番組途中で上柳氏が60歳の定年退職を迎えたと伝えていたのが印象的だった。
上柳氏とのラジオでの出会いは『オールナイトニッポン』月曜2部(1983年4月から1986年3月)。ちなみに月曜1部は中島みゆきが担当していた。それ以後、私がラジオと疎遠になった時期があったり、東京を離れていた時期もあったりしたがが、時折声を耳にして「変わらないなぁ」と思っていたものだ。
ラジオ局でのキャリアを単行本1冊にまとめるのは無理があって、どうしても駆け足になるのは仕方ないのだろうが、ここはもう少し詳しい話が聞きたいと思うところもいくつかあった。
むしろ興味深かったのは、転校を繰り返した少年時代や学生運動の残滓があった当時の立教大学での大学生活のエピソードが面白かった。生い立ちのなかでのラジオとの関わりを興味深く読んだ。
あと思ったのはラジオ番組は消え物だということ。映画や音楽などのエッセイの場合、あとで自分で作品をチェックできるが、ラジオ番組の場合はそうはいかない。基本的にはその場限りのモノである。それゆえ聴取者の生活を結びつきがつよく、いつまでも心に残るのであろう。
私は長らくTBSラジオのファンであり、さらに遡ればラジオたんぱの番組を愛聴していたこともある。そうしたこともあり、上柳氏の番組にすべてを聞いていたわけではないが、ラジオの持つ力を改めて知ることができた。
上柳氏の入社当時に既に「ラジオ放送はなくなる」と予言した人がいたそうだが、いまだ在京3局体制は変わらない。ラジオに対するニーズは根強いのだろう。エッセイを読んでそんなことを思うと同時にラジオ文化の将来についても考えをめぐらせてみた。